初恋は桜の中で
プロローグ5


「――意外な行動力があるな。卯月」

 春の微風が頬に心地よく触れる昼休みの屋上。

 天文部に見学に行って見ようかと思います、と、友人達に話した一夜は椿に開口一番そう言われた。
 夏陽は椿の言葉の意味が分からないのか、頭の上に疑問符を浮かべている。

「一目惚れだろ」

「ぇ…?」

 椿の言葉に手に持っていたミルクが落ちそうになる。

 ただ、あの桜の様な儚い微笑が頭の中から離れてはくれなくて、もう一度あの人に会ってみたいと想う感情は、今まで感じた事のないもので。

 一夜の心に淡い色を覚えさせていたのは事実だ。

「分かりません。でも、気にはなっています」

 偽りではない。

 一夜は未だ、この胸を焦がし始めた感情の名前を理解出来ていなかったのだ。

「それでもいいけど、あの人は難しい」

 椿の中音域が氷の様に下がり、その瞳に一夜を映した。

「僕や、君みたいに――」






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