初恋は桜の中で
プロローグ2
「――だから、早くに出ましょうって言ったのに」
「朝は苦手なんだよね」
「そんな事言ってると潰れちゃうわよ。天文部」
新入生獲得に精を出す生徒と、その先輩達に勧誘されている新入生とが入り乱れている混沌とした空間に、淡いピンクブロンドが鮮やかに咲いた。
今年入った女子新入生の中で随一の美少女と噂されている春風桜子(はるかぜさくらこ)だ。
その隣には背の高いレモンブロンドの美しい青年が居る。
一目で親しい間柄だと分かる、その空気に、桜子の声に耳を欹てていた複数の男子生徒が同時に肩を落とした。
「恋人いたんだな。春風さん」
さして驚いてもいない感じで夏陽が口を開く。
桜子ほど可愛かったら、恋人がいない方が不自然だと思っていたのだろう。
「違う」
「椿ちゃん」
「雪白君」
澄んだ中音域の声音に、一夜と夏陽が同時に振り返る。
すると、雪白椿が移動して来るのが見えた。
風に靡くその艶やかな髪に、夏陽が頬を染めたのが分る。
そこには一夜の知らない、夏陽の感情があったのかもしれない。
「あれは彼女のお兄さん≠セ」
兄――兄妹ならばあの親しげな会話にも納得できる。
けれど椿の言い方には、それだけではない何かが含まれている、ようにも一夜には聞えた。
「やあ、久し振り。白雪姫▲
「その呼び方止めて。雪白くん」
桜子と目が合った椿は親しげに手を振って見せた。
けれど桜子は明らかに嫌そうな表情だ。
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