初恋は桜の中で
プロローグ1


 ぼくの世界はモノクロだった。









 桜の散りゆく無機質な街の中を、漆黒髪の少年――卯月一夜(うづきいちや)は歩いていた。

「おはよ、一夜」

「おはようございます」

 一夜は同じ中学校に通っていた男子生徒――葉月夏陽(はづきなつひ)に軽い会釈を返し、目線を今年から通っている高校の校門へと向けた。

「バスケ部です〜!」

「共に青春の汗をかこうぜ!」

「漫研!マンガ読み放題だよ〜!」

「囲碁部です、頭良くなるよ!」

 校門の前では新入生を部活へと勧誘する在校生で溢れかえっている。
 人込みが得意ではない一夜はこれに溜め息を漏らした。
 あの空間は苦手だ、息が苦しくなる。

「君たち新入生だよね?どう、パソコン部」

 学内に一歩踏み入れた瞬間から眼鏡をかけた二年生と思しき男子学生に捕まった。
 学園敷地外での勧誘活動は原則禁止されているので、通学路を歩いている段階で目をつけられ。
 校門を潜った瞬間に、声をかけられたのだ。

「オレ、運動部に入る予定なんで」

「ああ、そうなんだ。ごめんね〜」

 夏陽が素早く勧誘話に断りを入れると、男子学生は慣れた様子で次のターゲットを探しに一夜達から離れて行った。
 時間に余裕のある放課後と違い、朝の勧誘は比較的あっさりとしていて。
 どんな部活が存在するのか、新入生に覚えてもらう事が目的の大部分だったからだ。
 脈が無と判断した一人、二人の生徒に時間をかけるよりも、一人でも多くの生徒に部の存在をアピールする。
 それが彼らの目標だ。

「一夜はどこに入るか決めた?」
 
 部活、と夏陽は終始沈黙を守っていた友人に問うた。
 夏陽と一夜の付き合いは中学校からのものだけれど。
 明るく人付き合いも得意な夏陽は、寡黙な一夜にも臆する事無く接してくれる、貴重な存在だった。  

 もしも、夏陽ともう一人の友人≠フ存在がなければ、一夜の世界はとっくに闇色に染まっていただろう。
 誰も居ないあの家に慣れてしまっていたあの時に。

「いえ。未だ」

 中学でも帰宅部だったし、特に興味のある部活動もない。
 恐らく高校でも中学時代と同じような時間が流れるのだろうと、一夜は思っていた。

「椿ちゃんはとっとと演劇部に入っちゃったしな〜。オレ達もそろそろ決めとかないと」

 夏陽の言う椿ちゃん≠ニは一夜のもう一人の友人――雪白椿(ゆきしろつばき)の事だ。
 夏陽と椿は小学校からの知り合いで、所謂幼馴染というやつだった 。
 中性的な顔立ちをしている椿は子供の頃からそれはそれは可愛らしかったらしく、今でも夏陽は椿ちゃん≠ニ呼んでいる。


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あきゅろす。
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