初恋は桜の中で
君の笑顔を知らない7


 夏陽が行動を起こしたのは、その日の放課後だった。

 本当は直にでも謝りたかった。
 けれど椿が教室の中に消えた直後に、授業開始を告げるチャイムが鳴り。
 夏陽は自分のクラスに戻らざるをえなかったのだ。

 夏陽が椿のクラスを再び訪ねると、複数の視線が彼に集中した。

 最初に尋ねた時の状況を見ていた生徒からは「何しに来たんだ?」と無言の圧力をかけられ。
 それを口伝に聞いた者も好奇心≠ニい名の視線を、夏陽に向けてくる。

 非常に気まずい空気だ。

 けれど、夏陽がそれに臆する事は無かった。
 彼の特技が運動≠ニ友達を作る事≠セったからだ。 

 夏の太陽。

 その名前の様に光り輝く笑顔が、夏陽の魅力。
 そしてそれは、初対面の人物にも遺憾なく発揮された。
 人懐っこい満点の笑顔を向け、居場所を問えば。
 親切な女の子が「雪白くんなら、図書室によってから帰るって言ってたよ」と、教えてくれた。
 勿論、謝りたいという言葉も伝えていたので。
 夏陽に向けられていた冷たい視線も、教室の中から完全に消えた。

 そして余談ではあるけれど、その時に知り合った何人かと後々仲良くなり。
 夏陽は友達の数を増やす事に成るのだった。





 椿の居場所を聞いた夏陽は、急いで図書室に向かった。
 廊下を走るのは禁止されているので、早足で。

 そして図書室で本を読んでいた椿を見つけると、夏陽は頭を下げて謝った。

 図書室で大声を出すな。と、文句を言われたけれど。
 それでも謝ったら、盛大な溜息を吐かれた。
 
 別に気にしてない。と、言われたけれど。
 夏陽はその日から、椿の元に通った。
 謝罪の気持ちも有ったけれど。何より夏陽は、椿と仲良くなりたかった。

 努力の甲斐も有ってか、親しい会話を交わすような関係にはなれた。
 けれど、それが友情≠フ域を超える事は無かった。

 子供で有ったし、他の友達と一緒に遊んでいるだけで満足していたからだ。

(まぁ、椿は無邪気に外で遊ぶようなタイプではなかったのだけれど。それでも、楽しかった)

 ――何より、同性からの好意を伝えても、椿は冷たく跳ね返す。と、思っていたのだ。

 ならばこのままオトモダチ≠ナいた方が良い。

 そう思っていた夏陽の考えは、中学二年生の春に。

 脆くも、崩れ去る事になるのだった。





「……僕と友達になろうか。卯月一夜君――――」



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