初恋は桜の中で
告白4


「それでね。名前とクラスをここに書いて、…ああ。電話番号はケータイのでもいいよ」

「はい。分かりました」


 何故こんな展開に…?
 自分の目の前で進んでゆくボールペンの動きを、桜架はただ眺めている事しか出来なかった。
 部員不足の天文部に入部希望者が訪れてくれる日を夢に見ていた。から、だけではない。
 突然の、同性からの告白。
 それに戸惑っている間に妹が――兄に告白してきた少年だとは知らない桜子が、一夜を入部希望者だと思い行動を起こしてしまったのだ。 
 一夜からの告白に未だ心を乱していた桜架には、それを止めるだけの言い訳≠ェ思いつかず。
 もしかして、一夜が入部を断ってくれるかもと淡い期待を抱いたけれど、彼は桜子に促されるまま入部届けにサインをしてしまった。
 


 


 ◆◆◆




「良かったね。卯月くんが入ってくれて」

「そ、うだね…」

 夕暮れの桜並木。

 家路へと脚を進める桜子は、待望の新入部員の存在に浮かれていた。

(明日から、どうしよう)

 自由に揺れるピンクブロンドとは対照的に、悩めるレモンブロントは春の夕風に好きなように遊ばれている。

 悩みの元は静寂な漆黒。

「どうしたの? 」

 ぼぅー、と。
 散りゆく夕桜を瞳に映していた兄を不思議に思ったのか、桜子は整ったその顔を覗き込んだ。

「お兄ちゃん…?」

 蒼い瞳は眼の前に居る自分ではない誰かを映している様で、桜子は訝しむ。
 その瞳の色が、恋に焦がれている友人のそれと似ていたから。

「なんでもないよ」

 一夜くんに好きだと告白されて、頭がぼんやりしてた。とは言えずに。

「散り桜が綺麗で見惚れていた」

 と、桜架は頭の中で再生され続けている漆黒を誤魔化しながら
 
 ひらひら、と、ヒラヒラ、と。

 静かに散りゆく夕桜を蒼い瞳に映していた。





[*前へ]

4/4ページ


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!