初恋は桜の中で
告白3


 人から好意を寄せられた経験が無いわけではない。
 桜架の父方の祖父はイギリス人で。
 その血を引く桜架の髪色は、陽に透けるレモンブロンド。
 そして瞳の色は、空を映す蒼色をしている。
 絵本の中から抜け出した王子さまの様な容姿に、学校の中でも黄色い悲鳴を上げられる事が何度かあった。

 けれどそれは、今まで異性である女子から寄せられてきたもので。
 同性である一夜からの告白に、桜架の心は混乱していた。

「お気持ちは、嬉しいのですが…」

 混乱する頭の中で何とか断りの言葉を音にする。

 同性に向ける憧れ以上の感情に、偏見があるという訳ではない。
 桜架は今まで、自分への好意を告白してきた相手には、そう断りをいれていたのだ。

「お兄ちゃーん」

 閉まった部室の扉の向こう側から少女の声音が聞こえてきて、桜架は肩をビクリと振るわせる。
 新入部員獲得のためのチラシ配りに出ていた桜子が、天文部に戻って来たのだ。

「チラシ、配り終わったわよ」

 不味い。
 兄が同性の少年から告白されている現場など、年頃の妹に見せて良いものではない。


「あら、お客さま?」

 何時もは桜架と桜子しかいない部室に、漆黒の髪を見つけた桜子は、瞳を輝かせた。
 待望の新入部員が来たと思ったのだろう。

「あ、えーと」

「どうも」

 少年の存在を認識した桜子は、何かを思い出そうとするような素振りを見せる。
 それに一夜は、表情を変える事なく対応した。

「朝、お会いしました」

「ああ!そうそう」

 雪白くんの友達の!と、桜子は手を叩いた。
 クラスメイトだった事のある椿と、同じ小学校に通っていた夏陽の存在は認識していても。
 初対面に近かった一夜の事は、桜子の記憶の中で、ほぼ零になりかけていたのだ。

「あのね、桜子ちゃん。彼は入部希望者じゃなくて…」

 そこまでの言の葉を音にして桜架は喉を詰まらせた。
 一夜が天文部に居る意味を何と妹に説明したら良いのかと戸惑ったのだ。

 正直に、愛の言葉を告げに来た少年だとは言えない。
 では、彼が天文部に居ても不自然ではない理由は…?

 会って間もない少年の存在に。
 桜架の心は、もうこんなにも振り回されている。






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