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ふわり

カーテンが揺れる、吹くはずのない風が頬を撫ぜた。

とん

何者かが室内に侵入する気配。
どうせまたいつもの侵入者なのだろうと気にも留めなかった。
何故ならここは3階、あいつ以外に入ってこれる奴はいない。


……


降り立った気配はぴくりとも動かない、おかしい。
いつもならば勘に触る呼び方ですぐに寄ってきて欝陶しい事この上ないと言うのに。


……。


「〜っ、なんなんだよてめぇ!」


確かに其処に居るのにまるで居ないのかのような気持ち悪い静寂に堪えきれなくて怒鳴りつけた。

……。


それでも動こうとしない影に無性に腹が立って拳を作って歩み寄った。

「おいこらエンヴィー!聞こえ、て…」

数歩手前、足が止まった。否、止めるしかなかった。
暗くてよく見えないけれど立ちすくむエンヴィーの頬には光る筋。
腫れた紫水晶からとめどなく溢れては、拭われることなく頬を伝ってぽたりぽたり流れ落ちる涙。

こいつのこんな表情、初めて見た。
どうしていいのか分からない。



「おチビさん…」


微妙な距離を保ったままどうしたものかと困惑しているとただ静かに涙を流していただけのエンヴィーがやっと口を開いた。
発せられた声は震えている。

何かに縋りたいのか、それとも何かを求めているのか。
エンヴィーは両の腕を目一杯伸ばして言った。


「淋しい」



刹那、伸ばされた腕ごと抱き締めていた。
このまま消えてしまうのではないだろうか、何の根拠もない不安が過る。

「大丈夫、大丈夫だ。オレがいる」

流れる涙で肩が濡れるけれどそんなことどうでもいい。
オレよりでかい、震える小さくて華奢な躯を子供を宥めるように力一杯抱き締めて髪を撫でた。

しばらく空に伸ばされたままだった腕は背中に回されて遠慮がちに力が籠る。
そして静かに流されていただけの涙は、肩に押しつけられてくぐもった嗚咽と共に服に吸われていった。






××××××



「ひぐっ、ぅー…」
「あーぁおまえのせいで濡れただろ?」
「ごめん…」
「…で、何で泣いてたんだ」
「それはー…おチビさんがいなくなると思ったら淋しくなって目が熱くなって止まらなくなっちゃった…」
「なんでオレがいなくならなきゃいけないんだっての」
「だっておチビさん人間でしょ、いつかボクを置いて死…ッ」
「だー!泣くな!たく、何十年先の話してんだお前は」
「だってぇ…」
「はぁ。…安心しろエンヴィーをおいて逝ったりしねぇよ。オレが死ぬときはお前も道連れだ」
「でも」
「るせぇ、お前も人間だろ?だったらいつかは死ぬんだ、四の五の言うな!つかもう寝るぞ!…ほら隣来いよ、今日だけ特別だからな」
「…うんっ」





×××××


ごめんなさい、これ書いたとき淋しかったんです泣きたかったんです


09/12/9

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