小説(中編) ―3― 「……テレシア」 呟く声は虚ろに零れ落ち、イシュタルの更なる涙を誘う。 父の深い愛情を知る分、その悲しみは大きい。 「お母様…どうして…」 冷たくなった母を目の当たりに、両手で顔を覆ったまま泣き崩れしまう。 理不尽に命を奪われた母。 涙はとめどなく溢れては、ドレスを濡らしてゆく。 「姉上」 シーヴァスはそんなイシュタルの傍に寄り、膝を付く。 「シヴァ…」 自分を気遣ってくれるシーヴァスの顔を泣き濡れた瞳で見詰めると、シーヴァスはイシュタルを胸に抱き寄せた。 「可哀相に…」 イシュタルの涙を優しく拭う彼の言葉は不可思議だが、その時は気にならなかった。 何かが崩れていく音が大きさ過ぎて―――。 一人一人の心さえもどこかに奪い去った凶行に、ただただ憎しみが渦巻いていた。 あんなにも温かで優しく心で満たされていたというのに…。 今はこの屋敷一杯に負の感情が満ちていた。 [*前へ][次へ#] |