小説(中編) ―6― けれど涙が溢れることはなかった。 反対に心は渇いてゆくばかりで。 オリフラムの世界は速いスピードで色彩を失っていっていた。 人は唯一のものを失った時、一瞬にして絶望に染まり、深情さえも無意味に変える。 それほどにテレシアに向けた深愛は限りなく深かった。 世界のすべてが彼女で出来ているように。 他愛もないことで笑い合えていた穏やかな年月さえも、今は遙か遠くに感じる。 虚ろな時間はただ過ぎ、身体は動けないまま柩の前で空虚さを感じるばかりだ。 再び扉は開かれる。 静かにオリフラムの元に忍び寄る。 「…我等が花は手折られた。崇高なる純潔は穢されて、慈悲のすべてを奪った」 シーヴァスの声音は酷く冷たい。 静かな怒りの炎を滾らせ、そこには強い決意が滲んでいた。 「罪深きものにはその報いを」 その言葉にテレシアの頬を撫でる手を止めたオリフラムは、初めて意識をシーヴァスに向けた。 「あぁ…その通りだ。罪人には裁きを」 虚ろな眼に生気が戻ったと同時に、狂気の光が宿る。 [*前へ][次へ#] |