小説(中編) ―5― 人は未熟で愚かな存在だけれど、愛すべきものだと。 そう言って慈悲深い聖母のように微笑みを湛えていたテレシアは、確かにこの世の何よりも美麗だった。 心の底から人を愛しく想っていたテレシアの言葉だからこそ、オリフラムも素直に信じられたのかもしれない。 そして、花を愛でることがとても好きだった彼女。 決して華やかではない、野花たちさえも同様に愛しいと言った彼女。 懸命に生きる美しさがあるのだと。 命に重さの違いはないと言い切ったテレシアは強い眼をしていた。 そんなことを想い出していた。 体温を無くした姿さえも変わらずに美しいと、そんなどうでもいい事を考えていた。 思考は上手く働いてはくれない。 何故そこに彼女は横たわっているのか、それすら理解出来ない。 判っているのに受け入れたくないと心が叫び続けていた。 [*前へ][次へ#] |