憑波連の狂日 Chapter:1 狂日〜5日目 T〜 春休み――最終日。 連が寝起きの怠い体をベッドから起こす。 藍璃珠によって、衝撃の事実が彼に明かされてから数日が経ったが、琥露廼や梨莉衣はその間全く音がなかった。 あの二人から連絡がないのは、それはそれで寂しい気もするのだが、春休みの最終日という貴重な時間を彼女らに潰されるのも悲しくもあるが。 それに、藍璃珠の言葉を思い出せば、琥露廼に会わないのもそれはそれでまずい。 そのような思考を巡らせていると、連のメールの着信音が彼の思考を中断させた。 「もしもし」 「あ、連」 琥露廼だった。 「今日、超常現象の実験をしたいから、駅前の公園に集合だから!」 最悪だ。 「嫌だって言ったらどうする?」 「街中で、『憑波連はロリコンだ』って書いたチラシばらまいてあげる」 「今すぐ行く」 「十分以内に来なかったら、無期懲役に処するからね」 何故、彼女はこうも我が儘なのだろう。 琥露廼の我が儘に付き合うのは、藍璃珠から与えられた連の役割でもあるし、彼自身も楽しいと思っている部分もあるから、どちらにしろ、彼女の我が儘に付き合うことになるのだが。 そんな事を考えるより、琥露廼のもとへ行かなければ、無期懲役になることを思い出し、連は、急いで身支度をし、家を後にした。 ――二十分後。 指定の場所に遅れて着いた連は、琥露廼にこんな発言をされる。 「遅れたから無期懲役にしましょうか。罪を償いきるために梨莉衣の家に行きましょう」 「うふふ・・・」 「梨莉衣の家は一体どんななんだ・・・」 「え?完全民営刑務所だよ。えへっ」 「「怖っ」」 恐怖に震える連と琥露廼。 「それはさておき、今日は超常現象の実験をするわ!どうせ意義はないでしょ」 「立ち直り早っ」 「ふふっ、なめないでよね。これでも『起き上がりこぼしの琥露廼』って通り名を持ってた時期もあったんだからね」 「あっそ」 こういう時は適当な返事を返すのが一番いいのだという、これまでの人生で得た教訓で連は言葉を返す。 そこで、梨莉衣は疑問を発する。 「どうやって実験するの?」 こんなに自然に琥露廼とやりとりしている梨莉衣だが、彼女も連の様に何者かに利用されている。藍璃珠の言葉に偽りがなければ。だが、連の様に、という表現は正しくはないのかもしれない。なぜなら、連はこの状況を気に入っているような気持ちをも持っているのだから。梨莉衣もこんな時間が好きなのかもしれない。それは本人にしかわからないが。 「うっ・・・」 ―――考えてなかったのかよ。 「う、うん、そうね。まあ、そこは連がなんとかしてくれると信じてるから」 「・・・は?」 「そうだね、連なら超常現象とか起こせそうだもんね」 ―――そう言ってるお前が一番超常現象起こせるんじゃなかったのか! 先日の藍璃珠の件から、梨莉衣が超常的な力を持っていることを連は知っている。梨莉衣本人は、連がそのことを知っていることは知らないが。 「言っておくけど俺は何もできないぞ。そもそも、さっき実験すること知ったばっかりなんだからな」 「「ケチ」」 「最初からできもしないからケチも何もないだろ」 「ふ〜ん、そういう考えなら『憑波連は熟女好きです』って書いてあるチラシを配ってやる」 「じゃあ俺は、『鐘咲梨莉衣はショタコンだ』って書いてあるチラシをばらまいてやる」 「じゃああたしは、連をうちの刑務所にいれてやる」 「「怖っ、っていうか本当だったんだ!」 こんなたわいもない会話から、彼らの非日常は始まった。 [*前へ][次へ#] |