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憑波連の狂日
Chapter:1 狂日〜2日目 夕暮れ〜
「貴方、あの娘とは、どんな関係なの?」
 連の後ろに立っていたゴスロリ少女は、そう問いかけた。だが、彼は、その質問に戸惑いを見せた。
 何故なら、あの娘と言っても、頭に浮かんだ人間が2人いたからだ。
「あの娘?」
 その疑問に少女は、当然のように答えた。
「楓麻 琥露廼の事よ」
「琥露廼がどうしたんだ?っていうか、お前、誰だ」
 その連の言葉に、少女は苛ついた様子を見せ、腕を組んで答えた。
「まずこっちの質問に答えて頂戴」
「知り合いっていうか、友達だけど。まあ、昨日初めて会ったんだがな」
 その答えは予想通りというばかりに彼女は次の言葉を紡ぎ出す。
「彼女の事、貴方は何処まで知っているの?」
 連は、意味深なその質問に、少し考え込んでしまったが、答える方が先だと思い、その質問に答える。
「ただの変人ってこと位しか知らない」
「そう、ところで、今日は楓麻 琥露廼について頼みがあって来たんだけど、聞いてくれるかしら」
―――なんか、コイツ、何かを気取ってるな。
 それが、連のこのゴスロリ少女に対しての印象だった。
 彼は、まだ彼女の名前を聞いていないことを思い出し、先ほどと同じ調子で彼女に言葉を返す。
「まず、さっき聞いた筈の名前について答えて頂戴」
 彼女は、まるで自分の名前について答える気など無かったかの様に、大きな溜息を吐き、渋々それに答えた。
「わたくしの名前?琶出城 藍璃珠っ」
 とても不機嫌な様だったが気にせず、連は、彼女の頼みとやらを一度聞いてみることにした。
「別に、無理な頼みじゃなかったら、聞いてやってもいいけど」
 その言葉を聞いた瞬間、藍璃珠は先の梨莉衣の様に「アハッ」と顔色を反転させた。どうやら、先ほどの不機嫌モードから一気に回復した様だ。
 上機嫌により、声を上擦らせながら、彼女は頼みを口に出した。
「あの娘の我が儘とか、そういう理不尽な遊びに付き合ってあげて欲しいのだけれど」
「は?」
 その言葉の意図が掴めない彼に、その感情を読んだように、先程の上擦った声と打って変わって、真剣な声色で藍璃珠は驚愕の事実を告げた。
「楓麻 琥露廼はね、とある異世界、詳しくいうとファンタジーな世界に存在する魔王の因子を持っているの」
 それを冗談だと受け取った連は、適当な返事を返す。
「あっそ」
 その連の返事を聞いて、藍璃珠は、大真面目に彼女の特異な体質について語り始める。
「実は、この世界には、そんな体質を持った人間が少数ながら存在するの。そして、わたくしもその一人。まあ、普通なら、持っている因子の元の記憶があるから、自分の異常性について気づくことができるから、わたくしもそれについて知る事ができた。だけど、楓麻 琥露廼の場合は、魔王の因子という非常に強力で危険な物のために、彼女の身体は、その記憶を封じ、それにより魔王の力をも封じた。だから、彼女はそれを知らないし、そのおかげでそんな危険な力を持つこともなかった。だけど、彼女は、常時強力な魔力を纏っているのよ。そして、それは彼女の、怒りや悲しみ、失望、まあ、まとめて言えば『負の感情』ね。それに反応して、様々な事象を引き起こす。例えば、世界の破壊や消失とか。それが起きることの無い様、貴方にこの頼みを言ったの」
 連は彼女の言葉をまだ信じられずにいた。こんなことはただの藍璃珠とかいう少女の妄想なのだ、とそう思いこむのが精一杯だったのかもしれない。
 そんな彼の様子を見て、藍璃珠は冷たく言い放った。
「今、私が言ったことが信じられないなら、別にそれでいいわ。世界の終焉が訪れてしまうだけだから」
 その藍璃珠の真剣さに、連のようやっと事実なのかもしれないと、そう思い始めていた。
―――実際、そうなのかもしれない。
―――いや、そんな非現実的なことある訳がない。
 そのような二つの考えが彼の頭を巡っていた。
「だけど、何で俺なんだ?」
 連の質問に対する答えを、藍璃珠の形のいい唇は紡ぐ。
「それは、貴方が彼女に選ばれたからよ」
 それに対し、連は即座に反論していた。
「それなら、梨莉衣がいるだろ」
 しかし、彼女はその反論を覆す言葉を口にする。
「鐘咲 梨莉衣も、わたくしと同じく、特異な因子をその身に持っていて、彼女はそうした『異能者』を集めた組織に派遣されたただの監視役だから、選ばれた訳ではないと言えるの」
―――あんなに仲が良さそうにしていたのに、そんな仲だったのか。
「でも、仲が良さそうだったぞ、あの二人」
 それに対し、彼女は淡々と事実を口にする。
「彼女は、ただ単に、幼馴染みという関係を利用されただけだから」
 連は、悲しい事実に対し、閉口してしまう。だが、彼の胸の内では、もうその頼みを受け入れてしまおう、という結論に辿り着こうとしていた。
―――結構、琥露廼と一緒に居るの、楽しかったしな。別にそれで、大事になるの防げるんだったら別にそんな役、やってやってもいいかな。
 琥露廼に対する、哀れみも、心のどこかにあるのかもしれない。だが、それが、今の連の気持ちであった。
 そして、彼は、藍璃珠にその意志を伝える。
「別にやってあげてもいい。別にあいつといるの、嫌いじゃないしな」
 その発言を聞いて、藍璃珠は満足したように、微笑んで、こう言った。
「そう。何か異変があったら、この番号に連絡しなさい。じゃあ、わたくしはこれで帰るから」
―――この女、礼の一つも無しかよ。
 藍璃珠がその場から立ち去る後ろ姿をみている時、連は利用された感が残って残って、それはもう芋腐れ人参キメラにでもなってしまいたい気分になっていたという。

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あきゅろす。
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