王子様のプロポーズ Are you Romeo? 「はい、エドワード。」 私は大学の近所の公園でお気に入りの本をエドワードに差し出す。 花屋で出会ってエドワードともう会うことはないと思っていたが、私たちは本を貸すという名目で会っていた。 「あぁ、ありがとう。」 今やエドワードはほとんどくだけた口調で話すようになっていた。 だんだんエドワードに近づいているようで嬉しい。 自然と頬が緩む。 「もう18巻なんだね」 エドワードの一言に私の顔から笑顔が消える。 この本は全部で30巻。 すべて貸してしまえば私たちが会う理由はなくなっていまう。 一市民である私が王子であるエドワードに会っているというだけで奇跡のような出来事だ。 それだけで満足しなければいけない。 頭では分かっている。 しかしエドワード様に会い、触れ合ううちに自分の中に芽生えた感情はいつの間にか抑えきれないくらい大きくなっていた。 私が話題を変えようと辺りを見回すと、大学の演劇部が稽古をしているのが見えた。 「今大学の講堂が工事中だから演劇部はこの公園で稽古をしてるんです。 2週間後に発表会があるらしくて。 ほら、前にオペラを見たところがあるじゃないですか、そこでやるらしいです。」 エドワードにはどうでもいい話だろうが、とにかく別れを考えたくなくて演劇部の話をする。 「へぇ、立派な所でやるんだね。」 こんな他愛のない話も優しく聞いてくれるエドワード。 そんな人と話せるだけで私は幸せ者だ。 「あぁ、ロミオ、どうしてあなたはロミオなの?」 演劇部の女の子がロミオ役の男の子に向かって悲しく叫ぶ。 「…あれはどういう意味なんだい?」 エドワード様がジュリエット役の女の子をチラリと見て私に問う。 「え!?エドワード、ロミオとジュリエット知らないんですか?」 私は少し驚いてエドワードの顔を見る。 エドワードは気まずそうに私から目線をはずす。 「そんなに驚くほど有名な話なのかい? 僕は読んだことがないのだが…」 「えぇ…有名な話だと思います。 読んだことがないなら…貸しましょうか?」 私は少しだけ期待をしてエドワードを見る。 「ぜひ。では次に会うときにいいかな?」 「いいですよ。」 エドワードに会う日が増えて私は自然と笑顔になる。 それから2日後エドワードに誘われて私は街へ と出かける。 待ち合わせの場所に行くと既にエドワードが待っていた。 私は彼の元に駆け寄る。 「真央、おはよう。 わざわざすまなかったね。」 ラフな格好をした眼鏡のエドワードが私を見て微笑む。 「いえ、大丈夫ですよ。 今日はどうしたんですか?」 「少しキミにみせたいものがあって。」 そう言ってエドワードはにっこりと笑って私を連れてどこかに向かう。 エドワードに連れられたのは植物園だった。 中に入ると何万という薔薇が美しく咲き乱れていた。 「わぁ、綺麗ですね。 エドワード様の薔薇園もすごいですけど、ここもすごいですね。」 エドワードは私の顔を見て優しく微笑む。 「喜んでもらえてよかった。 でもここにあるすべての薔薇を集めてもキミの美しさの前ではかすんでしまうだろう。」 そうやってエドワードは私の頬に優しく触れる。 私は熱が頬に集まるのが分かって恥ずかしくて俯く。 「俯いてしまったらせっかくの美しい花が見えないよ。」 そう言ってエドワードは私を優しく抱きしめる。 「エド…大袈裟です。 こんなところ誰かに見られたら…」 「…大好きだよ、真央。」 エドワードは私の瞳を強く見つめる。 その強い言葉に私は恥ずかしさは吹き飛び、ただただ幸せに包まれていた。 そして私たちは幸せな一時を過ごした。 *** それから数日後私の携帯が朝早くから鳴り響く。 「ん…誰よ、こんな朝早く。」 私は眠い目をこすりながらディスプレイを見ると表示されたのはルイスさん。 「もしも…「真央様!!」 私がでるとすぐにルイスさんが慌てて話し出す。 彼がこんなに取り乱すなんて… なんだか嫌な予感がする。 「エドワード様と真央様のことがからり質の悪い週刊誌に書かれてしまい…。 そのことで王族会の方々が大変お怒りで…。 とにかく今から迎えに参りますのでご用意をお願いします。」 それだけ言うとルイスさんは私に口を挟む間もなく電話を切った。 エドワードとのことが公になってしまった…。 二人だけの秘密が…。 私は頭が真っ白で気が付いたらお城の玄関に通されていた。 私が力なく歩いていると前から身なりのよい中年の男が10人ほどやってくる。 「お前が例の小娘か…。 王子に近づいたのは金が目当てか? よくも一市民の分際で浅ましい。」 男があざ笑うように私を見る。 周りの男も私を見下したように眺め、私をけなす。 「お前のような女が城にいることすら気に入らぬ。 早く出て行くがよい。 自分の身の程が分かっただろう。 お前のような汚れた女が来るところではない。」 男どもは私の腕を掴み、城の外に追い出す。 「待って、エドに、エドに会わせて。」 私は最後の力を振り絞って叫ぶが無常にも扉は閉められた。 それから私はエドワードに会うことも叶わず、ルイスさんに連れられて家に戻るしかなかった。 それから何日もエドワードに会うことすら許されなかった。 週刊誌を見ると私とエドワードが薔薇園で抱き合っている写真と共にあってもないような内容が書かれていた。 『王子をたぶらかす悪女』 こんなのすべて嘘だが、私と付き合っていたらエドワードの立場が悪くなる。 エドワードの王位継承が危うい…。 私がエドワードを愛したばっかりに彼が不幸になってしまう。 私のせいで…。 私はこれ以上彼に関わってはいけない。 これ以上彼を苦しめたくない。 私はエドワードとの永久の別れを覚悟した。 二度と彼と会うことはない。 *** 「真央!! 携帯鳴ってたけど、見ないの? さっきから眺めてるだけだけど。」 友達から声をかけられて私ははっとする。 エドワードとの別れを考えて1週間後。 私はエドワードを忘れようとエドワードの携帯番組を消してしまった。 しかし携帯を見るたび思い浮かぶのはエドワードの顔で、一日中彼のことを考えながら過ごしている。 こんなことじゃいけない。 早く忘れてしまわなきゃ。 そんなことを考えていると友達が声をかける。 「ねぇねぇ、このあと演劇部の発表見に行かない? 同じ学科の子がチケットをくれたの。」 「いいよ。」 ちょうどよい気分転換の誘いに私は快く賛成し、友達と会場に向かった。 「わぁ、大きいホールだね。 椅子までふっかふかだよー。」 友達は楽しそうにはしゃいでいる。 私は思い出の地でどうしてもエドワードを思い出して気分が晴れない。 「も〜う、真央テンション低いー。 私ちょっとトイレ。」 友達は席を立って行ってしまった。 「え、トイレって…もう始まるんだけど…。」 私が友達を引き止めようとすると同時に開演のベルが鳴り響く。 最初は友達の帰りを心配していたが、ロミオとジュリエットの真っ直ぐな想いを聞いているうちに劇に引き込まれ、隣に誰かが座ったのも気が付かなかった。 ロミオとジュリエット、愛し合う二人がこの世で結ばれることなく、死して結ばれた。 ワッと拍手が起こり、幕が閉まる。 なんだか私とエドワードみたい…。 お互いに心から想いあっているのに結ばない。 想いあっているだけではどうにもならないことってあるんだな。 自然とエドワードのことが思い出されて、胸が締め付けられる。 気が付くと、劇が終わりしばらく経っていたようで辺りに人がいなくなっていた。 「ごめん、もう出よう。」 私が言いながら席をたとうとすると手を掴まれる。 びっくりして振り返ると友達だと思っていたのはエドワードだった。 私は突然のことに言葉が出ない。 「真央…」 エドワードが愛おしそうに私の名前を呼ぶ。 久しぶりに聞く彼の声に胸がキュンと跳ねる。 「な…んで、エドワードがここに…?」 声が震えているのが自分でも分かる。 「ここに来れば真央に会えると思って。 そしたら本当にキミがいたから、キミの友人に無理を言って席を変えてもらったんだ。」 エドワードが当たり前のように呟く。 そして掴まれた腕が強く引かれ、彼の腕に包まれる。 彼の香りに懐かしく思うが、すぐに押し返そうと腕に力を込める。 「駄目です…。 私と結ばれたらエドワードは幸せになれない。」 しかし力を込めれば込めるほどエドワードの腕の力が強くなる。 「真央、キミがいなかったら僕は幸せになれない。 僕を幸せにするのは真央だけだ。」 「ホントに? 私一緒にいていいの?」 エドワードの顔をじっと見上げると、彼の瞳が優しく微笑む。 「僕が真央に側にいて欲しいんだ。 真央のいない世界なんて意味がない。」 エドワードの優しい言葉に私の目からは涙が零れ落ちた。 「エド、知ってた? …実は私ワガママなんだ。」 「え?」 エドワードが不思議そうな顔をする。 「死して二人が結ばれる…そんなんじゃ満足出来ないの。 エドワードとずっと、1秒でも一緒にいたいの。 そんな子は嫌い?」 「いや、どんなキミでも大好きさ。」 エドワードはそう言って私をお姫様のように抱きかかえて、頬に優しくキスをする。 私も嬉しさのあまりにっこりと微笑む。 これからたくさんの困難が私たちを襲うだろう。 しかし私たち2人ならどんな困難も乗り越えていけるだろう。 私はエドワードの首にぎゅっと抱きつき、そっと囁く。 「私をジュリエットにしないでね。」 fin *** あとがき 甘いシーンがほとんどありません(´・ω・`) 甘いシーンは難しいですね…。 エドワード本編ハピエンクリアしました! 次はウィル攻略します☆ |