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第始話


「脚どう?」
「快調、快調! あと3日で退院だってさ!」
「――――そっか」
「ていうか今日は来るのちょっと遅かったな」
「夜ご飯の準備、してから来たんだ」
「ふーん、なんだよ事故とかの心配しちゃったじゃん」
「……事故、」
「なに、本当に遭ったのかよ」
「ううん」
「今日なんか変だぞ――姉貴」


  § § §


「――――ただいま」

外側からの刺すような光を感じなくなってから、数分間。
私は目を開けるのを随分と躊躇っていた。
もしかしたら、数十分間だったかもしれない。
とにかく、すぐには目を開けることができなかった。

嫌だった。
戻ってきたのだと、わざわざ確認するのが。

分かってる。
分かってるんだけれど。

あんなに、楽しくなってしまった向こう側の世界を手離すのがあまりにも、寂しい。
目を開けたら、現実とまた向き合わなきゃならない。


私は5日程、『Starry☆Sky』のゲームの向こうへトリップしていた。
何がなんだか全く理解できなくて困っていたところを色んな人に助けてもらった。
みんな、ゲームで見るよりCDで聞くより格好良かった。

最初は楽しくなんて全然なかった。
とにかく帰らなきゃ、帰らなきゃ、と。
でもそのうち、その状況を楽しんでいる自分に気付いてしまった。


「――――……」

そぅっと、瞼を上げる。
暗闇に慣れた瞳には、久しぶりの光が痛かった。

私はやっぱりまた、パソコンの前に立っていた。
元通りだ。


「……っあ、病院、行かなきゃ」



  § § §


若葉総合病院。
ここに私の弟は少し前から入院している。
別段、重い病気というわけではない。
サッカーの試合で怪我をしたのだ。


「脚どう?」
「快調、快調! あと3日で退院だってさ!」
「――――そっか」

聞いたその日数は、私がトリップした日と変わっていなかった。
時間が、進んでいない……?


「ていうか今日は来るのちょっと遅かったな」
「夜ご飯の準備、してから来たんだ」

嘘。


「ふーん、なんだよ事故とかの心配しちゃったじゃん」
「……事故、」

あれらの出来事は事故、だったのだろうか。
事故なんて言葉で済ましてしまえるのだろうか。


「なに、本当に遭ったのかよ」
「ううん」
「今日なんか変だぞ――姉貴」

「そんなことないよ」

「あ、今日昼に来た友達がさ、お見舞いにお菓子くれたから持って帰れよ」
「ちゃんとお礼言った?」
「もちろん」



  § § §


その日は、もう色々といっぱいいっぱいでご飯もろくに口に入れずベッドに潜り込んだ。
考えたくない、何も。

何も。



――――そうして、どれだけの時間が経ったのだろうか。
何か私以外の人の気配を感じて、目を擦った。
両親は海外だし、 日本にいる弟は怪我で入院中。
私以外に誰かいるなんて有り得ないのに――


「――――っ!?」

大声が飛び出そうになるのを右側で押さえつけた。


「(え、え、えぇ……なに、何これなんで、なんでこんな……」


驚いて固まる私の目の前にいたのは――――梓だった。



またひとつ


(石ころが坂道を転がりだした)


to be continue...


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あきゅろす。
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