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伍。 おっきく


「おはようございます、架月」
「あ、おはよう梓」
「今朝どこ行ってたんですか?せっかく僕が迎えに行ったのにいないし…」
「あは、ごめんね?―――って、えぇ?迎えに?」
「なんですか…いくらなんでも驚きすぎでしょう」
「いやー…だって、ねぇ」


結局あのあと、教室に行ったのは予鈴後―――始業ギリギリだった。



  § § §


教育実習生であり、星月学園の卒業者でもある水嶋 郁が保健室に入ってきた。当たり前のように。
…ていうか、いつもみたく実習でお世話になっているはずの陽日先生から逃げてきていた。
まぁ正確にはその陽日先生からというより雑務から、なのだろうけど。
本当、どれだけ仕事嫌いなんだって話だ。
――かく言う私も別に、仕事が好きなわけじゃないけどさ。

で、その長身で細い線の真ん中に抱かれていたのは―――猫。


「―――っていうか、当たり前のように抱えているその猫、ダメでしょう」
「えー、なんで?」
「もし猫アレルギーの生徒が来たらどうするんですか」
「そうだぞ郁、コイツの言う通りだ。というわけでさっさと捨ててこい」
「嫌だね、こんな可愛いものを捨てるなんて。
っていうか捨てるなんて表現やめてよ。
アレルギーの人は、まぁ、ご愁傷さまってことで」
「いいわけないでしょう!?」


なんなんだこの人。
なんなんだ大人って。

―――大人、っていっても結構違和感あったりするかも。
ぬいぬい会長が1年生のときにはまだ在学生だったわけだし。
郁センセが生徒―――うっわ、制服がコスプレにしかなんないわ。うん。

そういえばゲーム内にコスプレのイベントあったなぁ…。

―――ゲーム。
ゲーム、ね。
遊戯。


そうだ、コレは、ココは、あくまでもゲームの中の域を出てない。
出てない。
出られない。
私も、出られない、まだ。

軽く―――いや、完全に失念していた。
自分の目的というものを。
この世界が人の創ったプログラムに過ぎないことを、忘れていた。
あるいは、去年あたりの私なら。
このプログラムの中に存在し続けても構わないと考えたのかもしれない。

でも、ダメだ。
今は。
このタイミングは、良くないし好くない。



「―――痛っ?」

おでこに軽い衝撃を受けて、思わず痛いと言ってしまった。
顔を上げれば、目の前に星月先生が右手をデコピンするように構えていた。
っていうか、私の顔を覗きこむようにしているのか、顔が近いぞ。


「な…んですか」
「百面相してたから、面白くて」
「はあ」
「頭大丈夫かなー、と」
「はあ!?」


思わずイラッとして星月先生の脳天を軽く平手打ちしてしまった。
しかし先生はそんなこと気にも留めずはははっと笑っていた。
するとわざとらしいため息なんかが聞こえて。


「いちゃこらするのはいいけど、僕がいないときにしてくれる?」
「いちゃこらなんてしてませんけど。
大体恋人同士でもないし、そんなの、ごは―――…っ」


ゲーム内でとはいえ3人もの先生と恋愛した身分では、その先が言えなかった。
なんとなく、だけど。
でも私の言葉尻は星月先生が捉えてくれた。


「そ、ご法度だ。
架月も変なコト考えるんじゃないぞ」
「い、今は考えませんよ…」
「今は、って。まるでこれまでに―――」
「あーっと、そろそろ予鈴もなりますから私はこれで!」
「はっ?おい―――」



 § § §


―――以下略、かな。
回想終了。

まぁそんなこんなで今教室にいるわけだけれど。
朝のSHRも終わって皆は各々一時間目の準備をしている。

しかしやっぱり、不味かったかな…。
生物学的に大人と言っていい人間を前に「逃げる」なんて、考えうる限り最悪の選択をしてきてしまったのかもしれない。
私はこういうところがダメなのだ。
後先考えず動いて、いつの間にか全く身動きなんか取れなくなってしまう。
もっと冷静に動かないと、なんて、分かってはいるんだけれど。


「…ちょっと、大丈夫なんですか架月?」

その、男としては少し高めの声に心配の色を纏わせて、梓は私の顔をじっと見据えていた。
さらにその顔色からも、「あぁ心配させてしまった」と軽い罪悪感に見舞われる。

仮にも年下に、心配なんて掛けてどうするというのだ。
コッチにいる間、掛けるのはせめて迷惑だけでいい。
それだけに留めておかなきゃ、ダメだ。

言ったらなんだけど、こんなちっさな―――――


「――そういえば梓って身長いくつだっけ、160ちょいだよね。陽日先生よりちょびっとだけ高かったような…」
「………」
「ちょ、そんな気持ち悪いモノを見る目で見ないでよ!知ってるものは仕方ないじゃない!」
「個人情報の漏洩ですよ、まったく。架月はいくつあるんですか?」
「ん、162」
「…」

梓は何とも言えない表情になっていた。
年頃の男子は皆身長が気になるのか。――――いや、陽日先生は年頃とは言わないけれど。
でも身長なんてそんな考えなくてもその内伸びそうなものじゃないのかな。


背伸びしたい、気分。





(でも)
(そうね)
(はやく、おおきくなってほしいわ)
(文字通りでなく、ね)


fin.



・・・・・・・・・・・・・・

わ、なんか適当だ
すみません;
ていうか更新久しぶりすぎ…精進します



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