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拾。 ばいばい




「んじゃ、その……気をつけてな」
「はい、短い間でしたけどお世話になりました」


休日のため閑静な校門前には、数人の見送りが来てくれていた。
静かに退散する予定だったのだが、どうやら会長が言いふらしたらしい。
そんなの、迷惑だからいいのに。
せっかくの休日なんだから、身体を休めてくれればそれで。
……いや違う。違うな。
これは単なる私のワガママだ。

だって、みんなの顔なんて見たら帰りたくなくなるに決まってるんだから。


「えっと、誉先輩には最初から迷惑掛けてすみませんでした」
「そんなことないよ。楽しませてもらったしね?」
「先輩ー……」
「ふふ、本当に僕の従妹にでもなってくれてもよかったけどね」
「そ、それは……」

微妙なんじゃないだろうか、と言おうとしたが寸でのところでやめた。
イトコ、ね。
妹じゃあないんだ。
…………。


「――何にやけてるんですか?」
「な、なんにも別ににやけてとかないから……っ」
「ふーん、」
「あ、梓にもたくさん迷惑掛けたね」

力尽くで話を方向転換し、笑みを作る。
そんな私に気付いてか気付かずか言及はされなかった。
その代わり、方向転換した言葉自体は否定された。


「僕も、むしろ楽しんでいたクチなので全然問題ないですから」

そう言われると、今回の事が大したことではない気にもなってくるほど、梓の表情は愉しげなものだった。


その後も、先生方や宮地くんにそらそらなどが一人一人お別れを言った。
最初は堪えられたものも、最後には堪えられなくなりぼろぼろと涙を零した。
泣いている間、誰も何も言わなかったのだが、そこへバタバタと近づく足音が聞こえてきた。


「――――翼くん……?」
「よかった、間に合った……っ」

だいぶ息を切らせていて苦しそうだったが、しばらくすると収まったみたいでこちらに向き直った。
そして右手をずいっと前に突き出してきた。
その中には何やら小さいものが握られている。


「見送り遅くなってごめんなさい。でもどうしても、コレ作って渡したかったんだ」
「え……コレって、お守り?」
「うん。お守りだ。君が無事に元の世界に帰れるように」

その言葉を聞いて、思わず吹き出した。

「無事に、って……元はと言えば翼くんが実験の失敗か成功か何かしらでこっちに来ちゃったんじゃない」
「ぬーん、そうなんだけどさ、」

分かりやすくしょぼくれる翼くんは可愛かったが、少し可哀想に思えてきたのでフォローもきちんと入れる。


「だから、ちゃんと無事に私を帰してね? 信じてるから」
「……ぬいぬいさー!」


そんなやり取りもあってか、その場は笑いに包まれた。
あったかい。
あったかすぎて、ほんとに離れられなくなっちゃう。
だから――――


「……さ、て。私そろそろ行きます」
「……ああ」

一瞬、しんみりとした空気が流れる。


「――また、来て下さいね」
「僕たちいつでも待ってるから」
「……今度はうまい堂に行こう」
「あー……体調管理はしっかりな」

「それじゃ、元気でな」


「はい……!」

翼くんが機械をカチャカチャと弄り、私の身体は目が開けられない程の光に包まれた。
でもお守りだけはしっかり握って。
この光が弱くなったころ、私はきっとまたパソコンの前にいるんだろうな――――




END.


(ばいばい)
(ありがとう)
(大好きだったよ)





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