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玖。 みつけた



不知火会長の反応から、今回の元凶が誉先輩ではないのを悟った。
私はてっきり、誉先輩が――と思っていた。
だって扉の向こうには誉先輩の姿があるビジョンが見えたのだから。


「……不知火会長、」
「あぁ、なんか悪かったな。ネタバレみたいな感じになっちまって」
「いえ……」
「さっき俺が言ったのは事実だ。お前がこっちにトリップした原因は、翼だ。
翼のことは、知ってるんだよな?」

無言で小さく頷いた。
もちろん、翼くんのことは知っていた。
それだけじゃない。
キャラクターとして出てきていた人物達のことは大体把握していたつもりだ。
だから。

今回の事件を、その内の誰かが起こしたなんて考えもしていなかった。


「……えーと、これは全部バレた感じなのかな」

しばらく黙っていた誉先輩がふと思い出したかのように口を開いた。


「は……? どういうことだ、誉?」
「ああ、うん。 僕は彼女がトリップしてきたそのときその場にいたんだよ」
「……そうだったのか」
「ごめんね一樹、なんか騙すみたいになって」
「いや、いいんだ」

見きれなかった俺の力不足でしかない、と会長は自嘲した。
そうだ、しばらく失念していたが誉先輩は梓と一緒になって私を庇ってくれていたのだ。
なんと失礼なことをしたのだろう。
とにかく、先輩には深く感謝しておかないと。


「あ、あの……」

会話の途切れたところへ、最初に声を掛けたのは月子ちゃんだった。


「細かいことは分からないですけど、とりあえず翼くんを探しに行きませんか……?」
「ああ、そうだな。ったく何処へ行きやがったんだアイツは」

ブツブツ言いながらも、すぐに生徒会室から出て行った。
私も急いで後を追ったが、後ろは誰もついてこなかった。
てっきり皆来ると思ったのだが……。


「あいつらは、ちゃんと自分達の役割を分かってんだよ」

疑問に思った私の心の内を見透かしたかのようにそんな言葉が返ってきた。


「役割、ですか」
「ああそうだ。お前の役割は翼を見つけて叱ることだな」
「叱るって……」

おどけた調子で言う会長だったが、ちらりと盗み見た横顔は真剣そのものだった。
自分もおどけて返そうとした口を閉じた。
ややすると、ある扉の前まで来た。
校内をしっかり記憶できていないから、この扉が一体どこに繋がっているのか見当もつかなかったが、この扉の向こうに翼くんがいるのであろうことはなんとなく分かった。


「……行くぞ」
「はい」

返事と同時に会長の手によってゆっくりと扉が開かれる。
スチルで見た通りの美しい庭園の奥に、翼くんの姿はあった。
何をするでもなく、ただぼーっと空を見ているようだ。
そのまま彼の方へ歩み寄る途中で、先ほど開けた扉がバタンと音を立てて閉まった。
その音に反応してか翼くんの肩がびくりと震え、こちらに振り返る。


「ぬ……ぬいぬい」
「見つけたぞ翼。お前何やってんだ?」

そう応えながらも私たちの足は止まらず、双方の距離はだんだん縮まっていく。


「……ごめんなさい」
「それは俺じゃなくて、コイツに言う言葉じゃないのか?」
「や、そんなのいいですよ会長……」

結果的にはこうして翼くんを見つけられたのだから謝るほどのことではない。


「でもなんで、その……こんな所に?」
「……。本当はちゃんと全部話して謝るつもりだったんだ。けど、いざとなると、君が怒るのを想像したら、怖くなって」

その弱々しい答えは最もなものだった。
私が彼の立場だったなら、同じことをしてしまっていたかもしれない。
彼のその後の言葉を要約すると、どうやら機械の不具合でトリップが起こってしまったとのことだった。



「でも、その、本当にごめんなさい。
君のことはすぐに――――帰すから」

「――――……うん、」




帰りたくない


(そんな風に思わせた)
(この責任)
(どう取ってくれるというの)



fin.


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