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零。 ほしづき


私は、科学的論理を信じている方だ。
あくまでも“どちらかと言えば”の話に過ぎないけれど。

だから別に、科学者だとかそういう堅苦しいものでもなくて、ただ単純に、科学で証明できない事象は信じられない、というだけ。
具体的に言うなら、オバケとか神とか。
そんなものが本当にいたら、キリがない。
偶像崇拝、なんて人類は何千年も生きてきて結局のところ何も変わっちゃいないじゃないか。

くだらない、とさえ思う。

そう、くだらない、のだ。
くだらない、はずなのだ。


な ら ば 、 こ れ は 何 だ 。


「星月、がくえ…ん」

目の前に立ち塞がる大きな門、その横にあるプレートに堂々と書かれているその学園名。
それだけじゃない。
私が今まさに着ているのは、その制服。

何故そんなことが分かるのか。
何故そんなことが理解できるのか。

そんなの、既に知っているからに決まってる。


「…さっきまで自分の部屋にいたような…?」

おかしい。
ここ数時間の記憶が霞んでいる。
えっと、今朝起きて朝飯食べて…その辺はまだしっかりと分かる。
で、最後の記憶は―――――


「パソコン、してたっけ」

そうだ。
私はまさしくこの星月学園が舞台のゲーム、Starry☆Skyをやっていたはずだ。


「――あっついなぁ…」

気温の高さやら蝉の声からして、夏、で間違いないだろう。
そういえば、制服も夏服じゃないか。

しかし私は完全に手ぶら。
何も、持っていない。
携帯がかろうじてポケットにあるのは感触で確認したが、きっと使えはしないだろう。


「ふー…」

落ち着け、自分。
冷静に考えろ、否、考えなくとも分かるじゃないか。

これは―――――ト リ ッ プ だ 。

でも、なんで?
あくまでも、私側は言うまでもなくスタスカ側にだって、そんな、人をトリップさせる原因があるはずないじゃないか。

だから、どうしたって、気が付いたら門の前でした、じゃ帰り方もわからな――――――



「あの、どちら様…ですか?」
「…!」

いけない、つい考え込み過ぎて今目の前にいる人物の登場に気がつかなかった。


「―――あずさ」
「は、なんで僕の名前…」
「え、あ…!」

制服姿の梓が、訝しげに私をじっと見ている。
うわ、正直照れる。
この状況で何を考えてるんだ、と頭をふる。

うーん。
しかし、失敗したかな…。
名前をつい言ってしまったのはまずかった。
知らぬ存ぜぬ、転校生だとでも言えたのならその方が楽かもしれなかったのに。

と そこへ、またも登場人物。


「あれ、何してるの木ノ瀬くん?」
「あ、ぶちょ――――」

「誉部長だぁ!」

「…うん?」
「わーっわーっどうしよう画面越しより美しい!」
「…ねえ木ノ瀬くん?この娘、誰?」
「不審者です」
「……」
「あああやめてくださいすみません無言で110番しないでくださいいい!」

お巡りさんにお世話になんかなりたくないよ。
元の世界でだって、お世話になんかなったことないのに。
ていうかこんな田舎(設定)のところに、そんな早く警察とか来るのかな。


さておき、困った。
こんな恰好良い方約二名の前にいるなんて状況もうそれだけできゅんきゅん―――――って違っ!
違うよ!

そうじゃなくて。
この状況をどう説明したものか。

…。
………。
…………………………。
いやいやいやいや。
無理だよ無理です無理なのよ。
ただでさえなんか見つめられて(睨まれて)いるのに、平常心を保って(きゅんきゅんせず)、お話する(状況説明)なんて。


「無理だ―――――っ!」

「…え、っと?」
「もう放っておきません?」
「……。いやいやダメでしょ」
「誉今迷ったよね?―――しくしくしくしく」
「なんでいきなり呼び捨て…っていうかなんで名前知ってるのかな?知り合い?」
「あー…っと、私が一方的に知っているだけというか…」
「一方的、ですか?」
「うん」
「どういうことか、ちょっと説明してもらえるかな?」
「…はい。」

なんとか、向こうから喋るチャンスというか機会をもらえた。
信じてもらえないかもしれないけれど、私は嘘が得意ではないし。

できる限り、話そう。


「実はかくかくしかじか―――――」


* * * * *


「トリップ、ね…」
「信じられませんね」
「う…」

やっぱり、梓に疑われた。
なんとなくこの子には否定される気がしてたんだよね。


「まあでも、トリップって話以外も結構面白いね」
「はい?」
「あぁ、星座の話ですよね」
「うん。
それに、夜久さんのことは好きだけど、少なくとも後輩として+@くらいだし」
「そうですねー、僕も実際は部活でしか関わりないですもん」
「でも…ふふ。
その所謂“プレイヤー”が上手くやれば僕に彼女、なんてできるんだ」
「まぁ…そういうことです」

ぶっちゃけ、一番説明しにくかったのが乙女ゲームのくだりだった。
この人たち――――知らなかったのだ。
いやまぁ確かに男子が乙ゲーを詳しく知ってても困るけど、恥ずかしさとかもあって、説明しにくかったのだ。


「うーん、信じきれませんね…」
「はは…あ、じゃあさ。ここにいる人物の名前と関係くらい言えるのかな?」
「あ、はい、まぁ…」
「じゃあ、それが合ってたら信じることにするよ。
ね、木ノ瀬くん?」
「まぁ、それなら…」
「えっと、

 梓の従兄弟で水瓶座の翼…天羽 翼」

「…!」


「誉と仲良い(?)牡羊座のぬいぬい…不知火なんだっけ?とにかく、ぬいぬい」

「……」


「弓道部副部長にして蠍座、甘党な宮地くん」

「「……」」


「あとは、そうだな…。
関係がありそうなのは、職務怠慢保険医のこた…星月先生にちびっこ陽日先生に教育実習性の水嶋先生。
―――――くらいじゃないかな?」

「―――分かりました、信じます」
「ふふ…そうだね」
「わ、まじですか、やった!」

うんうん、やっぱ信じるって大事だね。


「でも、どうするんですか?帰れないんですよね?」
「あ…」
「そうだね…」
「…はぁ、仕方ないですね。いいですか、こうしましょう」
「「?」」
「僕の知り合いということにしてあげます。
長く海外か入院していたか、言い訳でもして一年のクラスに来てください」
「? なんで?」
「二年には、月子先輩がいます。それは、矛盾しちゃうと思いませんか?」

そうだ。
確かに、そうだ。
私は夜久 月子でもあったのだ。
そこに今の私が行ってみろ。

きっとただでは済まない。


「…よろしくお願いします」
「はいはい」
「大丈夫、木ノ瀬くん?」
「なんとかします」
「ふふ…君らしいね。
じゃあお任せしようかな、えっと…名前なんていうのかな?」
「月白 架月です」
「じゃ、行きましょうか架月先輩」
「…も、いっかい呼んで?」
「はい?架月先輩?」

うはあ!
名前呼ばれちゃったようわあぁああ…!
だめだ、心臓もたないかも。


「…くすくす。架月せんぱーい?」
「ちょ、もういいよ!恥ずかしい!」
「えー?なんでですかー?くすくす」
「分かってやってるでしょ…こんのぱっつん!」
「は、もう連れて行ってあげませんよ」
「ごめんなさい」


ぜろからだけどぜろじゃない関係


(このときの私、なんて、無邪気なのかしら)
(羨ましいわ)
(壊してしまいたいくらいよ)


fin.


・・・・・・・・・・・・・・・・・

長編は辛いかな、と思い思っての中編。
キャラは全部出したいけど…無理かな。
まぁ、一年中心でほわほわいこうかなー、なんて考えてますが。

スタスカは甘ぁくしたい私。

お付き合いのほどよろしくお頼み申しますー。




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あきゅろす。
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