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始まらない恋(翼)




「―――…」


青葉若葉は馨り、爽やかに風が吹き、木漏れ日は揺れ。
そんな夏のときとはちょっぴり離れて、私の心には小雨が降り続いている。
その雨はもう、ずっと。
あれは―――――そう、まだ桜舞い散る穏やかで賑やかだった、4月。



- - - - -

私は宇宙科だ。
クラスのメンバーはやはり、というか頭の良い生徒ばかりだった。
別に自惚れるつもりもないけれど、きっと私も例外なんかではないのだろうが。
それでも私は女であるということを除いて、“その他大勢の中の1人”でしかなかった。

その中でなんとなく目立っていたのが、従兄弟同士だとかいう木ノ瀬 梓とそして天羽 翼だった。

木ノ瀬くんは何よりあの奇っ怪な髪型だし性格が性格だし。
なんというかまぁ、目立つわ、それは。

で、天羽くん。
こちらはなんていうかまぁ普通に目立っていた。
成績トップ、という言葉が名前に飾りとして付いてまわっている。
いやむしろ“成績トップの奴”なんて名前代わりにもなっているくらいだ。
そんな彼は静かな人間だった。

もっとも、教室内では…のはなしだが。

私はしばらくの間“この人はこういう人なんだ”なんて心でナチュラルに納得しきっていた。
でも、たまたま2年の夜久先輩と一緒に書類を運んでいる姿を見たとき、胸の奥がずくりと疼いた。


「(あの――――天羽くんが―――あんなに――笑ってる―――――飛び跳ねたりなんか――して)」


本気で、夢か幻想かと思った。
天羽くんは、教室じゃあ普通に静かだし。
ほとんどは木ノ瀬くんと一緒にいるものだと思っているから。

「(…そっか、生徒会だもんね)」


ふ、と会長やその他役員の顔が浮かぶ。
皆みんな凄くいい人たちばかりな上に、仕事もできる。
夜久先輩なんか、数少ない“女”という立場なのにも関わらず生徒たちの上に立っている。
それは、とても、凄いんだと思う。

そういえば、私も入学式の次の日に。
不知火会長に生徒会に誘われた記憶がある。
確かに、会長には人を惹き付ける“何か”があったように思える。
けれど、私なんかが生徒会だなんて――――。
それに、誘われた理由は私が“女”だからだとしか思えなかった。

優遇されやすい、とか。
会長の目が届く、とか。
そんな理由なんだろうなって。

ひねくれているのかもしれない。
それでも。


私にはそんな“資格”がない。


それが、数ヶ月前の私の結論だった。
まぁもっとも。
会長にはそんな私の返答すら見通していたようで。
ただ拒否の返事を受け取るのを確認だけして、それ以後、関わりはない。


- - - - -


「(…あれからまだ――――3ヶ月も経ってない)」

それだけの間、ずっと。
ずっとだ。

これは、きっと一般的に言うなれば“恋慕”と呼ぶのだろう。
胸を鈍く痛め続けている、この疼きは。


「(なんて自分は―――単純なんだろう)」

天羽くんを見るたび、そういう風にも思った。
人間、その人の違う一面なんかを見ると惹かれやすい、とよくいう。
これは、ただ私が知らなかっただけだというのに。
夜久先輩からしてみれば、それはただの日常で。

つまり、夜久先輩の方が天羽くんに…近い。


「―――なに?」
「え…?」

どうやら、考えている内に天羽くんをじっと見ていたようで。
視線の先で訝しげにこちらを見ている彼は、私に笑いかけてはいなかった。


「あ…と、ごめんなさい。
何でもないです、」
「ウソ、そんな顔してないじゃないか」
「……」

「君さ、たまに見てるよね俺のこと」

「え、あ、ちが…」
「違わないよ。
最初は梓見てるのかと思ってたけど、そうじゃなかったみたいだから」
「ご、めん…」
「別に謝ってほしいわけじゃないんだけどなぁ。
ただ、なんでなのかなって」
「……」


口をつぐむしかなかった。
本当のことを言うわけにもいかないし、かといって、ウソは苦手だ。
すぐ顔に出る。


「えーっと…あのさ。
勘違いだったらそうで聞き流してほしいんだけど」
「…?」
「俺には想い人がいるんだ。
別に付き合ってるわけでも、なんでもないんだけどさ。
それでも、その人しか――興味ないから」
「……っそ、う」
「えっと…じゃあな、ぬはは」


私のとってもとっても短い恋は、きっと最悪の形に終わった。
終わってしまった。
ジ・エンドだった。
それも、自分からは何の意思表示もせず。
ただただ、終わりが迎えにきただけ。

来るべくして来た終焉。
予定調和。


でも、なんでかな。
胸のモヤモヤは、小さくなった気がする。
彼は、最後に笑ってくれたのだ。
あの、特徴的な笑い方で。
“私”に。



―――ありがと。



fin.


・・・・・・・・・・・・・・・・・

う、わ。
なんかめっさ…やおい。
すみません←


 



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