ビジョン
“この学園にいらない人間なんていない”
“全員が学園に必要だ”
そんな、一樹会長の言葉をふと思い出した。
私は思わず、ひとり自嘲した。
「あは、未練たらしいなぁ」
目の前にはヒラヒラと舞う可愛らしい薄桃色の、桜の花びらたち。
それらをぼーっと見つめながら、始業式をさぼっている。
もう、一樹会長は、卒業した。
今頃颯斗新会長があいさつでもしているところだろう。
そして、私は二年生へと進級した。
その証として胸には混じりけのない赤い色の、スカーフ。
「なに、やってんだろう…私」
―――――私には、あの人と出会った瞬間からこの結末が視えていたというのに。
スカートが汚れるのなんて気にも留めずに、桜の樹の前…地べたに座り込む。
一樹会長には一年間だけお世話になった。
月子先輩と一緒に書記をやらされた。
“お前の星詠みは必要だ”なんて言われて。
自分の、この無駄だとずっと思ってきた能力が何かの役に立つなんて、きっと、先の見えきった世界に絶望していた一年前の私には、嬉しくて、嬉しくて。
その誘いへは即OKした覚えがある。
私は、入学式のときの会長のあいさつに、恐怖とかそんなの微塵も感じてはいなかった。
畏怖、というのが近いのかもしれない。
堂々としていて、カリスマ性溢れ、嫉妬するくらい羨んでいた。
そんな会長と過ごした怒涛の一年。
みんな、みんな、大好きで。
別れなんてずっと見て見ぬふり。
三年生が卒業していっても一樹会長はいつまでもこの学園にいるんだ、なんて勝手なことも無意識に考えていて。
舞い落ちる桜とともに、目から熱いものが零れそうだった。
「もームリですよぉー…?」
“今だけを見て”なんて私にはできない。できないんですよ。
もう未来すら視えない。
過去、だけ。
星詠み、だなんていらないから。
未来を見通せるだけで何もできない、こんなチカラ。
涙をこらえて少し空を仰いだ。
すると、桜の花びらのなかに会長の姿を見た気がした。
「一樹会、ちょ…?」
そこには勿論、花びらだけ。
幻影だった。
―――しかし、砂月はそれに惑わされたまま。
砂月の瞳には、あの豪快に笑う不知火一樹の姿が映っていた。
「あー…砂月さん?」
始業式を終えて砂月を探しに来た颯斗が少し遠くからその姿を見つけた。
けれども彼女は全く気付かない。
どころか、とても嬉しそうに桜を見続けている。
「…かいちょう、一樹会長……っ」
「砂月、さん…」
颯斗には向けられることのない、違った形の好意の目。
人として、最上級の好意の視線。
青空颯斗は柄にもなく苛立った。
「――――砂月さん!」
「は、颯斗会長…」
「はい。会議始めますよ?」
「あ…すみません」
彼女の目はもう、さっきまでの色は褪せていた。
―――会長?私はまた会いに来ます。…いつまでも。
錆びついた歯車
ひとは、かこ、にとらわれ、て、しまういきも、のなんだ。
fin.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
わー暗いっ!
しかもぐちゃぐちゃ…精進します。
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