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言いたい、言えない、言わない。(誉、梓)

「ぶっちょおーっ!」
今日も綺麗な射形ですね!」

「うん、今日は調子がいいんだ」

ありがと、と言って微笑む誉部長にまたも私の心はきゅん、となる。
あぁ可愛い部長愛しい部長!

うーん、別に恋愛的に好きとかじゃないんだけどな。
なんだろう――――あぁ、そうだ。犬とか猫とか。
うん、そんな感じ。


「先輩、部長を見すぎですよー。部長に矢でも射る気ですか?」
「愛の矢なら」
「……」

スタンッ
ぱっつん後輩もとい梓くんは私の言葉なんか最初から聴いていなかったかのような自然な態度で無視し、的に向き直っていた。
けっ相変わらず可愛くない。―――いや可愛いけどもさ。

この学園、わざとか!ってくらいイケメンばっかり。
てか女が私と月子ちゃんしかいないってことにもビックリしたけど…まぁ、元男子校だって聞いていたから去年入学した時はあんまりビックリしてなかったけ。…んー。


「星影さん、大丈夫?」

弓を片手にぼーっと考えごとをしていた為か、部長が心配気に声をかけてきた。

「え、は、はい!この通りぴんぴんしてますっ」
「そっか、なら良かった。でも無理はダメだよ?」
「はははいっ!」

先輩やさしー先輩やさしーっ!
あぁもう愛が溢れて止まらない!


「…先輩」
「ん、何かな梓くん」
「その…言わないですか?」
「はい?なにを?」
「だから好きってですよ」
「は、梓くんにかい?おいおい冗談も笑えまい」
「…。違いますよ、誉部長にです」

ぴたり、と2人の間の時が止まった気がした。
梓くんが何を言いたいのか、よく、わからなかった。


「ちょ、なんでそうなるの」

スタンッ
この手の話は面と向かってするのが苦手。
だから、的に向き直って矢を放つ。
すると、隣の梓くんも同じように射ちながら話しかけてきた。

「だって先輩、部長が好きでしょ?」
スタンッ
「うん、だってそりゃ、部長だし」
スタンッ
「そうじゃなくて」
スタンッ
「えー…。確かに好きには変わりないけど――――恋愛的にじゃないし」

ガンッ

梓くんの矢が外れた。珍しい。


「なんですか、それ」
「なに、と言われても…?」
「あれだけ好きですオーラ出しておいて、恋愛感情はない、なんて言うんですか?」
「うん」

てか“好きですオーラ”って何よ。

意味不明な梓くんを軽く無視して、一旦休憩。
ペットボトルの蓋を開けて水を口に含む。
ひんやりとした感覚が喉を通った。
一息ついてふ、と隣を見ればいつの間にか梓くんがいなくなっていた。



* * * * *


「部長」

ぼーっと水を飲んでいた砂月先輩を後目に、部長のところへと足を運んでいた。


「ん?何かな、木の瀬くん」
「唐突ですが、誉部長は砂月先輩を好きですよね」
「本当に唐突だね」

そう、答えではない言葉を返して苦笑する目の前の部長。
といっても、かなり背の高いこの人は見上げなければならないから、なんというか、不利な感じだが。


「で、どうなんですか」
「分かってるんでしょ、もう性格悪いなあ」
「よく言われます」
「ふふ、そういう意味で言ったわけじゃないんだけどね」

部長は、憎まれ口も開き直りも通用しない。
そして、なんだかんだ話を逸らされてしまったことに気づく。
あぁ、ダメだな。っていうか、なんか、負けているみたいで――――悔しい。
けどまぁ、その辺の私情云々はさておき。


「なんかもう、僕見てらんないんですよ」
「何、をかな」
「お二人を、ですよ。決まってるでしょう」
「……」

なた黙って苦笑する誉部長。
焦れったい。
なんで言いたいことを言わないんだ。
先輩たちは皆、そうだ。


「…ふーん、そうですか分かりました」
「うん?」
「誉部長は、特に何も言うこともないくらいに砂月先輩のことはどうでもいいと思っているってことで、」
「え、別に僕はそこまで―――」

「僕がもらいます」

「…!」
「文句、ありませんよね」

部長の顔が蒼白になっていたのなんて、知らない。
僕だって、こんなキューピッドなんてキャラじゃないし。
でも、あの砂月先輩は、気に入ってるから。


「せーんぱい!」
「わ、梓くん。さっき突然消えたからビックリしたよ」
「あはは、すいませんっ。
で、先輩、ちょっと話があるんですが―――」

この人には、ずっと、幸せそうに笑っててほしい。

「うん、いいよ?」
「ここじゃちょっと―――なので、終わった後一緒に…」

「星影さん!」

そこに飛び込んでkた、優しいながらに鋭い声。
安心感と少しの躊躇いのあと、僕はさりげなくその場を離れた。


「―――――」
「―――――」


誉部長と砂月先輩の会話は聞こえない。
それでいい。
今、聞くのはちょっと辛すぎるから。

しばらくして、道場内が騒がしくなっていることに気がついた。


「あの部長と砂月が付き合うらしいぜ!」
「みたいだな…くっそぉ〜」

そんな会話を耳にして、あぁ終わった、と思った。
何が、なのか。
僕の役目?僕の恋心?
分からない。

でも、僕は、誓う。


「…せーんぱいっ!
誉部長なんかやめにして、僕と付き合いません?」
「え…」
「木ノ瀬くん?」
「あははっ冗談ですって!」

明日も貴女と笑いあうことを。


笑顔の代償

安くはない。
高くもないと、今でも思える。






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あきゅろす。
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