能天気はホメコトバ 「堕王子ー」 「だから堕王子じゃねっつってんだろ」 「ヤバいですよー」 「無視かよカエル。つーか何が“ヤバい”ワケ?」 「はーやっぱり馬鹿ですね堕王子はー」 「いいから早く言えよ」 「咲サンですよー。今ボスはこの城内にいるんでしょー? もし只の一般人である咲サンなんかと会ったりしたらー…」 「―――ししっ、やべぇな」 口調こそいつも通りだけど、内心冷や汗ダラダラ。だって、あのボスがいるんだぜ? せっかく王子が殺さないでやったのに台無しじゃん。 ――なんでもいいから、とりあえず生きててくれよ咲。 * * * * * 「「…はぁ」」 ため息二重奏。 そうもなる。だって、咲サンはどのトイレにもいなかったんだから。 このクソ広い邸全部探したのにこんちくしょー。 もはや一瞬の幻覚を生み出す気力もありませんー…。 そんな、ほとんど諦めモードで自分の部屋に今朝振りに戻る。 そこには、いつもの自分の部屋の何ら変わらない無機物の中に、あり得ない有機物がひとつ。 「え、咲、サンー?」 「…すー」 寝ていた。 こちとら必死こいて探していたのに、その張本人は自分の部屋、部屋の中心にあるベッドに悠々と無防備に寝ていた。 「ちょ、この怒りはどこにぶつければいいんですかー」 「…ん、ぅー…」 ていうか。 暗殺部隊の巣窟の一室でいつ刺客が現れるとも分からない場所で。 のうのうと寝ていられるこの人の神経を疑いますねー。 これは、無神経を通り越して只の馬鹿だろうな。 「――痛っ、何すんだよー」 「いや、なんかキミが凄く失礼なこと考えてた気がして」 「……。起きたなら起きたって言ってくださいよー」 ほんと、いつの間に起きてたんだよこの女。久しぶりに吃驚した。 「訊かれなかった」 「うわ、ムカつくー」 「てかさ、この部屋なに? カエルくんはこんな部屋で何してるの」 「“こんな部屋”で悪かったですねー。自分の部屋に戻ってきただけですけどー」 そう言えば、咲サンは気まずそうな顔をして、「さ、殺風景な感じは嫌いじゃないよ!」なんて苦し紛れなフォローをしていた。 あたふたとした様子が可笑しくて、つい微かながら笑った。 「本当に何にもないな」 「さっきのフォローどこへやらー」 「私、フォローなんてしたかしら…記憶にないわ」 「どうやら咲サンの記憶力は都合良すぎく出来てるみたいですねー」 「ふふふー」 うっわ、何このぬっるい空気。キモ。 でも、なんだか落ち着いた気分になっている自分がいた。認めないけど。 「…不安じゃないんですかー?」 「何で?」 「こんなところにいることがですよー」 ん、“こんなところ”なんて自分ごときが世界に対して言ってはいけなかったかもしれないな。 善悪なんて見る人によって変わるものだし。まぁ、暗殺部隊が“善”な場合なんてそうないかもしれないけど。 ――あぁ、所詮言葉遊びだ。関係ない。 「あぁ、そんなこと」 「そんなこと、って…」 「大丈夫に決まってるじゃない」 ベルやフランとか、本の向こう側の登場人物に逢えるなんて素敵じゃない、と屈託なく笑う彼女。 正直、度肝を抜かれた感じ。 「なんでだろね、不和よりもワクワクの方が大きいんだ」 「…過剰な好奇心はいつか身を滅ぼしますよー」 子供の時、いや、もっとずっと気の遠くなるくらい前、昔から。 ずっと言われてきた言葉の一つを皮肉っぽく目の前の彼女に言ってみた。 でも、それへの返答はあまりにも―――― 「あは、こんな体験したらもういつ死んでもいいかな」 ―――自分に残虐だった。 いや、人間は所詮弱い生物のはず。 いざ刃を向ければ、きっと命乞いをする。 「じゃ――殺されますかー?」 懐に忍ばせてあるナイフをサッと咲サンの首筋、律儀にもきちんと頸動脈の上に宛がった。 これを引けば彼女の命はあっさりと、あまりにもさっぱりと狩られる。 「うん、いいよ」 「は?」 「だから、そのナイフ引いてくれていいよって言ったの」 いや、いやいやいやちょっと待って。何だよこの女。 怖いとか嫌とか、そういう感情ないわけ? なんで笑ってるの なんで逃げないの な ん で、 「あ、最後に質問!」 「は?」 「そのナイフってベルの?」 「は…まぁそうですけどー…」 「やっぱりね。私、ぶっちゃけリボーンはそんなにちゃんと読んでなかったから自信なかったけど…うんうん」 私の記憶力も伊達じゃなかったな、なんて咲サンは自分を誉めていた。 その姿に思わず嘆息。 「はぁー…なんか萎えましたー。 だからあんたは殺しませんー」 「うん、分かってたよ」 「え、」 「フランが私を殺すつもりなんてないって、分かってた」 「は、なんで」 「自分で気付いてないの?殺気緩すぎ。それじゃ蟻も殺せないよ。 それに、私を殺さないって最初に決めたのはフランじゃん」 だから分かってたよ、と彼女は再度繰り返してニコリと笑った。 刹那、心のどこかで“この人には敵わない”と思ったのは、きっと、気の迷い、だろう。きっと。 …それに、さっきからドアの方からする気配にもいい加減相手してあげないと。 「ベルセンパーイ、覗きなんてどっかの変態みたいなことしないで下さいー」 「あり、バレてたか」 案の定、ドア超しにあの声がした。 「当たり前ですよー、そんな分かりやすい気配があってたまりますかー」 「てんめっ暗殺者に対して侮辱だし」 「あーすみませんねー」 「感情込めろし」 「ふふふっ」 「「なに」」 「や、さ。やっぱり大好きだよ二人とも」 「は…何いってんの」 「…気味が悪い、にも、程がありますよー」 「失礼な、乙女の告白を」 乙女なんてどこでしょうかー、と言えば咲サンはムキーっと怒りだして。 …自分は柄にもなく動揺していて。 ふ、と堕王子と目が合えば「にしし」と見透かしたように笑われた。 「おい咲、カエルが照れてんぜ」 「何ホラ吹いてんだよー」 「そうだよベル、フランが照れるなんて天地がどちらともわからないくらいにひっくり返ってもないよ」 「……」 なんだか、言い返すの煩わしくて、やめた。 それに今はなんだか気分がいい。 いつでも楽しくなるんだから こんな日常、ミー達にも過ごせるんだ fin. ・・・・・・・・・・・・・ ちょっと暗かったかな? 私はこういうのたまには入れるとメリハリあって好きなんですけどねっ それに、言葉遊びとか戯れ言って好きだからつい入れちゃう… 読みにくいようでしたら言ってくださいませ! はい、うざいですよね 陽はこういう人なので、気長に付き合ってやって下さいな ←→ [戻る] |