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なんきんぺきん

「理不尽ですよねぇ、世の中ってもんは」

「…何なの、君」

「お、ポケットの中から飴玉はっけーん」

「僕を無視するなんていい度胸だね」

「ん、きょーたんも食べたいの?」

「そのふざけた呼び方とその格好やめなよ、咬み殺すよ」

「だから歯の強度どんだけ」

「もう君めんどい」


ありり。なんか今、存在を否定された気がする。悲し。
でもきょーたんカッコいいから許す。タイプだもん。

「ねぇ、君なんでここに来たの」

「私の名前は君じゃなく咲です。
大魔王から逃げてきました」

「今すぐ突き返してあげる」

「ノンノンノン!特にあのシルクハット君もいたら私死ぬ」

「知らないよ咲の命なんて。僕は君が嫌いだよ」

お母さん、娘は今フラれたようですよ。

「なんでよ。私はきょーたんのことを指先から小指の爪くらいは愛してるのに」

「ちっさ、なにそれ」

「冗談です」

「…。
君、昨日僕の攻撃避けたでしょ」


うっわ、いきなりそこいきます?話の切り替え半端ないっすね。

実はあれから、もう1日経っていた。

親が心配するので帰ります、なんて言ってみたら独り暮らしでしょ、って。なんで知ってるんですか。
いや愚問かな。
心読めちゃうんだもんね、ツナさん。厨二病だもんね。

だから、無理矢理部屋に閉じ込められて(意外に可愛らしかった)することもなく、一晩明けてしまったのだ。

しかも、朝叩き起こされた(レディーの部屋に無断で入るな)かと思えば、朝飯作れと言われ。
嫌ですって言ってみたら臨死体験してしまった。

――で、次に何か言われる前に逃げてきたというわけだ。


で、話を戻す。
「だって、いきなり攻撃なんてされたらそりゃ反射的に避けるでしょうよ」

「なんで、」

「そんなの痛いからに決まってるじゃないですか」

「そんなこと聞いてないよ、なんで君みたいな草食動物が僕の攻撃が避けれたの」

草食?どっちかって言うと肉食ですが?


「は、そんなに自分のスピードに自信があるんですか」

「うん」

即答だった。

「確かにあの時は一般人相手だと思って手加減はしたけどね。
それでも避けきる女なんて見たことないよ」

「それはおめでとうございます、きっと巡り逢う運命だったんですよ」

「嬉しくない」
 
「あ、きょーたんチョコなら食べる?」

「まだその話続いてたの」


心底疲れた顔をされた。
そんなきょーたんを無視してチョコを口に放る。ウマウマ。



「ちょっと雲雀さん、咲知らない?」

そんな小さな幸せに浸っていた私の耳に届いた(私にとって)不幸せな声。


「うっわ、大魔お――なんでもあるけどありません」

「言いたいことあるなら言いなよ、ねぇ」

「ひいぃぃい!」


こわ…怖…っ!
流石大魔王、オーラが半端ない!

「はぁ…やっぱり咲はスパイなんかじゃないだろうね」

「え、まじ、疑い晴れた、ひゃっほい!」

「こんなアホがスパイなんて出来るわけない」

「ちょっと待てぇえ!」

「あ、ごめん。」

あれ、意外に素直じゃないかツナ大魔王。

「ドアホ、だったね」

「笑顔が心に突き刺さるんですけど!?」


ツナさんの笑顔、ぶっちゃけ好きなんだけどこんな形で見たいなんて思わない!

「咲みたいなアホは一回死ねばいいと思うな」

「ぎゃー!?」


え、ちょ、すとっぷすとーっぷ!
なんか大魔王の手からオレンジの炎出ましたけど。

かなりあり得なくありませんか。
なんできょーたんは興味無さげにしてるの。我関せず、みたいな。

こんなの人間が出来るわけないのに!

――ということは、ツナさんリアルに大魔王なんじゃない?


「うん、とりあえずその妄想何とかしようか」

「(心だけど)覗きは犯罪ですよ、ツナさん」

「燃やそうか」

「きょーたん助けて!」

「は?ちょっと僕を巻き込まないでよ」

「あははは!」

と、唐突に爆笑し始めたツナさん。
私なんか変なこと言ったっけ…?


「あはっ…雲雀さんって“きょーたん”って呼ばれてるんですよね」

「……咲が勝手にね」

「俺、雲雀をあだ名で呼ぶ人――いや、呼べる人初めて見た…あははっ」

「咬み殺すよ、沢田綱吉」

「いや、さっき最初に聞いた時に吹き出しそうだったけど堪えてたんだよね」

あー久しぶりに爆笑した、などと呑気に笑うツナさん。
でもね、私の隣の人の殺気が半端ないんだけど?
私もう冷や汗ダッラダラなんですけど?

ひとしきり笑って落ち着いたのか、そうそう、と言ってツナさんは話を切り替える。


「咲に聞きたいことあって」

「はぁ」
 
「だからちょっと俺の部屋に来てくれる――ってか来い」

「命令形!?」


反論する余儀なくしてずるずると引き摺られていく私の体。
きょーたんがだんだん小さくなっていく。
当のツナさんは50kgほどの私を苦せず引っ張っている。


しばらくすれば、昨日ツナさんとシルクハット君と喋っていた部屋に着いた。

「ツナさんツナさん、」

「何?」

「もしかしてあのシルクハット君も今ここにいるんですか」

「リボーンね。もしかしなくてもいるけど」

「あちゃー」


やだなー会いたくないなー、なんて考えている間にも扉は開かれて。
私は内心ビックビクなのにリボーンさんは「ちゃおっす」などと呑気に挨拶してきた。


「さて、と」

ツナさんの声に反応してそちらを見れば、スッと目を細めてこちらを見ていた。
っていうか睨まれてるの方がいいかも。


「咲には聞きたいことがあるんだよね」

「みたいですね…なんですか?」

その後、一時間にも渡って質問された挙げ句、「まぁ俺らの予想通りだね」だって。

最高だこのオトコ。


「で、私がスパイじゃないって分かりました?」
 

「うん、分かったよ」

「よかった。なら私は家に――」

「咲のもつ並外れた動体視力がね」


は?と、つい間抜けな声が出る。
動体視力?私に?


「ちょ、待って下さいよ…
私にそんな大層なものはありませ――――うわっ」

「……」


言葉を言い終える前に、真っ正直から拳が飛んでくるのを目で捉え、サッと頭を逸らす。
ガコッと物騒な音がしたかと思えば、私のすぐ後ろにあった壁の表面が砕けてる。

「え…ツナ、さん?」

「ほらね、避けたでしょ。
俺や雲雀さんは身体的に強い人間なんだよ、その攻撃を避けられるなんて」

この手から逃すなんて勿体ない、などとほざかれた。

ツナさんはきっと、本当に身体能力は高いだろう。
何せ、殴られる直前までツナさんと私との距離は少なくとも5メートルは離れていたのだから。
そんな距離、一瞬で縮められる一般人なんてまずいない。


「…私、は…ただの高校生です」

「知ってるよ、でも学校退屈だったんでしょ?
だから真っ昼間なのにここに迷い込んできた」

「でも、私には帰る家が…!」

「じゃあさ、」


あるんです、と言わさせてもらえなかった。
 

「あと1ヶ月、ここにいてよ。咲が1ヶ月後になってもまだ自分の家に帰りたいって言うんなら…その時は帰す」

「そんなの、――」

「いい?これは賭けであって、脅しだよ。
俺は今すぐ咲を殺せるんだから」


え、物騒にも程がありますが?
なにその気まぐれ発言。
気が向いたら殺しちゃうぞ、みたいな。こわ。


「…分かりましたよ、1ヶ月ここで暮らします。
まぁ面白そうだしね」

「くくっ…絶対に1ヶ月後、帰りたくないって言わせてやる」

「黒!」

「何か言ったかな?」

「いーえ、なーんもデス」
Are you ready?


(あっツナさん)
(なに?)
(今日は私が来た記念ってことで焼き肉が食べたいです!)
(別にいいよ)
(まじか、きゃっほい!)
((…お気楽娘が))


fin.

・・・・・・・・・・・・


動体視力、私は低い←

さあ賭けに勝つのはどっちかな?




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あきゅろす。
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