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Look for...(雲雀)

私には今、親と呼ぶべき人がいない。
ただ残った莫大な財産で、独り暮らし中。

そういう私にもやっぱりっていうのかな、“親の形見”と呼ぶべきものがあって。


「(嘘…っ!何処にもない……っ)」

今日は厄日だ。
特に移動教室も多くて、何処に落としてしまったのか見当がつかない。
しかし、全部探していては閉門に間に合わない。


「あーもー…何処にあるの…?」

すると途方に暮れて俯いていた私の頭上から、突然声が降ってきた。


「君、何してるの?」

「……げ、」


迂闊だった。

この学校に、この人物がいるということをすっかり忘れていたのだ。


 風紀委員委員長、雲雀恭弥。


私はこの人が嫌い。
って言ってもこの学校の生徒で、彼を好きだなんてほざく物好きな人はそういない。

短気で子供みたいだし、人に容赦なく攻撃する。
だから関わらないようにする、という暗黙のルールをずっと守り通してきたのに。


「水の泡だ……」

「何が?
用事があるなら早くしなよ。もう閉門だけど?」

「え…あ!」

咄嗟に自分の左手首に目をやる。
そこに表示されている時刻は閉門15分前。



「ど…しよ……」

「だから、何してるの?」

「あ……何でもないで――」

「言わないと咬み殺すよ」


ホラ、また―――。


「……。
無いんです、写真の入ったロケット」

「ロケット?
…あぁ、ペンダントなんて探してるの?」

「そうですけど…」



何でも良いから、早くこの場から…この人の前から逃れたい。
それだけを考えていた。




すると、雲雀さんは何やらごそごそとし始めた。


「…あぁ、あった。
ハイこれでしょ?」

「え、私のロケット…!」



嘘…
なんでこの人が――


「音楽室のドアのそばに落ちてた。
気をつけなよ」

「あ、はい…ありがとうございます…」


見つけて持っててくれたんだ…。
そんな、持ち主が分かるかどうか分からないものを。

なまえは、雲雀に対する感情が少し…いや、だいぶ変わった。
ほんとは、優しいのかな。うん、きっとそう。


私がずっとそのロケットを眺めていると、珍しいことに雲雀さんからの声がかかった。

「そんなに大切なの、それ?」

「え?―――はい、何よりも」

「………ふーん。何よりも、ね…」



どこか意味ありげにそう呟いた。
だが、あまりにも小さくてなまえにはしっかり届いていなかった。
 


「……あ、そうだ。
大切なものを見つけて頂いたお礼、させて下さい」

「お礼?
いいよ、そんなの。いらない」

「それじゃ、私の気が済みません。
何か、欲しいものとか無いんですか?」


雲雀さんはそこで、別に―――、と言いかけたところで言葉を切った。




「本当に何でも?」

「はい、何でもです!
あ、金額が高過ぎるのはダメですけど…」



私は後悔した。
そして、教訓を得た。

無闇に“何でも”という言葉は使うものではない、と。




「じゃあ君をちょうだい」

「……。…………え、ぱーどん?
いや…ははっ冗談キツいです、笑えないですよ(笑ったけど)」


「何?冗談だって言いたいの?
君の鈍感さの方が笑えないよ」



あははー。
何なのこの人。
人を鈍感呼ばわりですかー?


なんか気まずくなってしまったので、冗談を言ってみる。
ジョークというやつです。戯言です。


「それは純粋な意味ですか?
それとも、性的な意味ですか?」

「両方」

「うわーい、なんか愛されてるぅ私!」



冗談にならなかった。ジョークにも戯言にも。
真顔で言われた。もうなんか怖い。
助けてお母さん。



「君、何でもって言ったよね?
だから拒否権なんて無いから」

「……取り消したいなーとか――」

「思ったところで無駄だよ。
じゃ、今日からよろしくなまえ」


え、名前。
言ったっけ、私。
……。いや、言ったんだよきっと。
じゃなきゃ雲雀さんが前から私を知ってたことになっちゃう。




そう考えているうちに、雲雀さんは踵を返していた。


「あ、ちょっと雲雀さ――」

「恭弥って呼ばなかったらキスするよ」
「きょ、うや…」

「何?
もう暗いから送っていくよ。ほら早く準備して」

「あ、はい……」



半ば強制的に帰る支度をさせられ、本当に送ってくれた。


私はまだしばらくの間、気付くことはなかった。

恋心という名の、“何よりも”大切なものに。



 
 ・・・・・・・・・・・・・・・

なんか、なんか…
甘いって難しい。



 



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