[携帯モード] [URL送信]
饒舌girl。(日番谷)

「おい、なまえ」



日番谷隊長率いる十番隊の第八席である私、なまえは今隊長の部屋で一緒に仕事をしていた。

相変わらず松本副隊長は居なく、元々そんなにお喋りではない私達は黙々と書類を片付けている。


「何でしょうか」


こんな業務的な言葉を連ねるも、一応の恋人同士である。
しかしながら、二人の性格が性格なだけに付き合う前とたいして変化は見られなかった。

唯一、変わったと言えるのは一緒に仕事をする時間が増えたくらい。



まったく、嬉しいのかそうでないのか分からない。
だが珠稀にとっては“一緒にいる”ということが嬉しかった。



「この書類を市丸のところへ持っていってくれないか。
本当は俺が行きたいが(いや、別に行きたいわけじゃねぇけど)、ちょっと今から出なきゃならねぇんだ」

「あれ隊長、市丸隊長に会いたかったんですか。残念ですね。
大丈夫です、私が隊長の分まで見てきてあげますから」

「あぁ……いや待て。
別に馴れ合ってくる必要はない――」

「冗談です。
可愛いですね隊長は、本気にするなんて。
安心して下さい、私が見つめるのは日番谷隊長だけです」

「――――…。
もういい、早く行け」


訂正をしよう。

なまえは普段なら無口なのだ。
だが。
一度口を開くと、よくもまぁスラスラと可笑しなセリフが出てくるな、と感心さえ覚える奴だった。



実際、愛だの恋だのどうでもいいという考えの冬師郎がなまえの告白を受け入れたのも。
こんな感じに流されたからであった。



「………はぁ」


冬師郎は大袈裟な程のため息をつき、部屋をあとにした。





ところ変わって。
なまえは市丸ギンの元へと赴いていた。



「隊長、市丸隊長、市丸様、ギンさ―――」

「もうええ、そない呼ばんでも気付くわ」

「そうでしたか。失礼致しました。
ちなみにどの呼び方がお好みですか?
なんなら松本副隊長の声真似で
“ギーンっ”と語尾にハートを付けつつ呼ばさせて頂くという線も―――」

「あらへん!!
久々に会うたけど変わらへんな!!」

「ありがとうございます」

「褒めてないわ」

「冗談です。分かりますか?
ジョークです。
隊長というのは可愛い人が多いですね」

「……。
で、用は何や?
もしかして僕に会いに来てくれはったん?」

「まさか。
はははっ、冗談キツいですよ」


「なんや傷付くなぁ!」



ふむ、市丸隊長はどうやらデリケートらしい。
覚えておこう、記憶のもつ限り。


茶番も程々に、用事を済ませることにする。


「今日は、日番谷隊長から書類を預かってきました――っと、コレは婚姻届だった…。
失礼、これです」

「キミはツッコミどころが多すぎて、ツッコミ殺しやなぁ」

「やだ…市丸隊長ったら……
突っ込む、だなんて卑猥な」

「あぁもう好きにせぇ!」




何だろう。
市丸隊長は柄にもなく疲れたような感じに見受けられた。

本当は一刻も早く帰って日番谷隊長と恋人らしい営みをしたいが……。



「大丈夫ですか。どこか悪いのですか?
私がお茶の1つでもお煎れしましょうか」

「(原因の張本人に言われてもうたわ…)
いや、ええわ――」



と、そこで市丸隊長は微妙に言葉を切り、何かを考えついたようだった。



すると、先程の表情から一転。
ニヤリと笑みを浮かべた市丸隊長。


そんな思考が終わるか終わらないかの末、頬に不自然な感覚を覚えた。


「コレ、もってきてくれたお礼や」

それだけ言い残して、何処かへ消えていった。




「…ってえぇぇ!!?
なに、なんで……っ」


今、今!!
あのカス隊ちょ……市丸隊長、私の頬にキス!!
キスしやがりましたですよ!!

もはや、混乱でまともな日本語を喋れていないなまえ。


そこへ、幸か不幸か。
出掛けていた日番谷隊長が帰ってきたようだった。



「お前、まだそんなところにいたのかよ」

「た…たいちょー……」

「は!?なんで泣くんだよ」




なまえは、キスを受けたことに罪悪感を感じ、泣くしかなかった。



「……ごめんなさい―…」

「だから、何があったんだよ?
市丸か?」

「…キス……」

「は?」

「キスされた…」




あは、どーしよ。
嫌われちゃうかな、軽い女だって思われたりして。

もう、顔見られな―――――



俯いていたはずの私の顔は、いつの間にか日番谷隊長の目の前にあって。

そんな驚きも束の間。




私は日番谷隊長にキスをされていた。





「………っ」

「…消毒、してやった」

「顔、赤―――」

「あぁもう、早く戻るぞ!!!」



面食らった私の目に映ったのは、柄にもなく照れた様子の日番谷隊長。

でも…



「ねぇ」

「……」

「私がキスされたのは頬よ」

「早く言え!!」

「誰もファーストキスを奪われたなんて言っていないわ。」

「う……」

「安心して下さい。
私の初めては全て隊長にしかあげませんから」

「…へぇ?
じゃあ今日貰おうか」

「はい?
今日、もうあげました。
あれはファーストキスです」

「……本気で言ってんのか?」
 
「すみません、何分恋愛には向かない性格でしたからキスしたことありませんで――」

「もういい」

「?」




何だかんだで、なまえのお喋りのお陰で仲が深まった二人であった。



End.


――――――……α



「ねぇ、さっき何が言いたかったのですか?」


「あ?
あぁ……教えてやるよ、今夜な」


「?
別に今教えてくれればいいんじゃないですか?」


「今お前いいって言ったな?
じゃ、抵抗すんなよ」



fin.w




1/1ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!