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NOVEL━
人生最後の日。(トゥーシー+ペチュニア+フリッピー)
思い出なんて、残酷だ
良い事を思い出す事、というのを前提にしているから思い出。
「どうしたの、トゥシー」
「何でも無いよ、ペチュ」
物凄く眠くなりそうな昼下がり、日溜まりも鎮座するソファに深く腰かけて、ぼぅっとして天井を見つめて考えていると彼女の問いかけ。
視線を下げて膝に乗った彼女の小さな頭を撫でつつ答える。濃くも透き通る様な青い髪に指を通すと彼女はくすぐったそうに身をよじった。
猫みたいだなぁ…なんて思いつつ、何時もの質問を投げかける。
「なぁペチュ、君は死ぬ時に何が見たい?」
くすぐったそうに身をよじっていた彼女は不思議そうに顔を上げ、数回瞬きしてから答える。
「何って…分からないわ。でも、今はペチュが見たい」
そう言ってクスクスと笑った彼女は何を思い付いたのか嬉しそうに立ち上がってボクを見下ろし微笑みかけた。
「そうね、もし今日が人生最後の日だったら、もっとおめかししなくちゃ」
そう言って彼女は日溜まりの差す明るい廊下を駆けて部屋へ行く。
「…人生最後の日、か…最後ねぇ」
吟味する様に、持て余す様に、口の中を転がす様に、その言葉を呟く。ついでに咀嚼もしてみる。
舌を噛んだだけだった。
「痛ッ…」口の端から血が垂れ、涙の様にゆっくり首筋を伝っていく。
「ボク等は何時も人生最後なんだよ、ペチュ」
拭う事も億劫で更にソファに身体を沈めて眼を閉じた。
彼女は繰り返している日常に気付いていないらしい。まぁ、だからと言ってどうという事も無いけれど。
この後は嬉しそうなペチュが駆け寄って来るんだ。そして彼女は悲鳴を上げる。手当てをしようとボクに触れるけれど、持ち前の潔癖症でパニックを起こす。泣き出し、嘔吐し、叫ぶ彼女を落ち着かせてガーゼやらハサミやらの指示をボクがするけど、彼女は自分の指を切る。ざくざく、じょぎじょぎ。それで大丈夫だなんてボクが微笑むと、彼女も泣きながら吐きながら微笑えむんだ。それで泣き顔が酷いよ、鏡を見てごらんなんて言ったら彼女は素直に頷いて部屋に戻って叫び声が聞こえて。血まみれの自分を洗おうとお風呂に入るんだけど、お湯に入ったら傷口から血が抜けちゃうじゃないか。馬鹿だなぁ、人生最後の日にボクを見れなくなるだろ。
「…っふ」
彼女の鼻歌と足音が聞こえてきた。思い出し笑いも何回目だろうね。
「トゥシ、今日の服は…どうしたの!?貴方、血がっ…」
「いやいや、思い出し笑いしちゃってさ…」
「っ…」ぎゅ、と拳を握り締める彼女。さて、そろそろボクの頬に手を添えて泣きながら手当てをする頃かな。
「…お医者さん、呼んでくるわ」
「…え?」
「私じゃ、無理だもの。お医者さん、呼んでくるから待ってて」
そのまま裸足で外へ駆け出す彼女。…まさか、やっと記憶が戻った!?ボクも慌てて駆け出す。
「ペチュっ…」
耳をつんざく悲鳴、が、途中で途切れ静かに。
静か、に。静寂。脆弱。横たわって首の無い彼女。虚ろな目玉。止めろ、見るな。
「…っえ」
訳が分からない。訳、訳、誰か通訳してくれませんかね。一体何がどうなっているんですかね。何時もなら彼女は風呂場に居るんですよ。それで、何故か軍人が乗り込んで来て、ボクをサクッと。
訳が分からないまま彼女を見下ろすボクの前に、迷彩服のズボンが現れた。
「この村で生きようなんざ無理だぜ」
そう言って楽しそうに、悲しそうにしながら軍人はボクに言う。
「…っはは」
人生最後の日。それはボクに取って、生きる事なのかもしれない。
「あ、言い忘れたけどよォ」
何だろうと思って上を向く。影になって軍人の顔は分からないけれど、彼の眼から雨が降ってきた。
「お前、死ぬぜ」
ボクの何度目かの人生は、こうしてぷしっ、というナイフの侵略を許し気の抜けた様な首からの音で終わりを告げた。
…あ
ボクも最後はペチュが見たかったな


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あきゅろす。
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