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「あー、そうだけど」

教会がミーリアに依頼したのは、『魔法の剣』の開発。これは仲介人の出現よりも前から製作されていた。

教会秘伝の武器製作法もある。それでも、ミーリアの秘する魔法技術の方が遥かに上だ。聖なる力を付与するならともかく、単なる物質加工なら魔女は誰にも負けない自信がある。

ミーリアは数秒黙りこみ、人差し指で頬をかいてから、再び口を開く。

「六割。残る四割は、まあコイツ次第さね」

振られたシェリルは、びくりとして、あたふたした。どうして自分が四割かわからない。武器なんて作ったことないし、方法だって知らないのに。

だが、セレスはまた、ああ成る程と納得した。イリーズも同様に頷く。シェリルはますます困惑する。その間にミーリアは、今度こそ部屋を出て行ってしまった。

セレスも立ち上がり、レジラントも見送りに。残されたシェリルはとりあえず、冷えた紅茶を飲み干す。仕事をしようと思った。

すると、イリーズが若干口ごもりながらシェリルへ話しかけた。そわそわしているようにも見える。

「その。元気でしたか?」

「あ、はい。元気でした。イリーズさんはお元気でしたか?」

久しぶりの再開は嬉しくって仕方がない。いつもよりも多めにシェリルの頬が緩んでいた。

「・・・・・・・・・・・・ふお」

シェリルは気付いていない。イリーズの瞳がキラキラと輝きはじめたことに。

どうやら随分見ないうちに内面は成長していたらしい。頭を撫でたくなる衝動に駆られながらも、理性を総動員して抑える。

「で、では、私仕事があるので」

シェリルが席を立つと、イリーズも立ち上がる。

「頑張りなさい」

「はい。ありがとうございます」

にっこりと笑ってシェリルが部屋を出た後、独り残されたイリーズは熱病に浮かされたように胸を押さえた。

「あ、危ないところだった」

もう少しで理性を失うところだった。はあはあしてきた呼吸を整えつつ、額に手を当てる。少し熱っぽくなっていた。同様を隠そうと、すっかり冷めてしまった紅茶を飲み干す。

「相変わらずですねイリーズは」

戻って来たセレスがイリーズを見て呆れていた。二人とも、修業時代からの戦友だ。どちらがサード・シスターになっても不思議ではなかったが、セレスは、これ以上規制に縛られるのを嫌がった。

お互いのことを知り尽くしているぶん、言葉に遠慮がない。ちなみにレジラントは、そそくさと退散した。

「セレス。・・・・・・久しぶりに会ったのだ。しようがないだろう」

幾分、イリーズの口調が砕けた。肩に入っていた力が抜ける。修道女というより、気の合う友達同士といった感じだ。

テーブル越しに座ったセレスは、壁へ視線を移し、呟いた。

「あれが縞栗鼠ですか。随分と、まあまあ・・・・・・あれですね。小動物というよりも、鎖に繋がれた獅子ですね」

「セレスには、そう見えるのか」

認めたくはないが、盲目ゆえに人の本質を見抜くセレスが言うのなら本当なのだろう。

シェリルは、心に抜くことができない、深い棘を持っている。それでも、彼女は修道女として生きると決めたのだ。そこに、逃れられない運命がある。

久しぶりの再開。神の偶像なしで酒でも傾けたかった。だが、事態は暗い不安を広げるばかりだ。

目を閉じて、両手を組んだイリーズは、

「どうか、シェリルに天の加護を。深い闇を落としたもうな」

沈鬱な想いを振り払うように、祈りを捧げた。



「残りが四割って、どういう意味なんだろう?」

庭の掃除をしながらシェリルは思案していた。雑草抜いては思考し、落ち葉を集めては吟味する。四割も足りていないのは重大な問題だった。十個必要な林檎が六個しかないのだ。これは非常事態。

庭は綺麗になっていくというのに疑問は増えるだけ。くるくる回り、うんぬん思案。

天気が良い。リズのお見舞いに行きたかった。早くもシェリルの思考が別の方向へ逸れていく。

「――――ちゃん」

だから、後ろから声をかけられても、すぐに気付けなかった。

「シェリルちゃん」

「ひゃっ」

驚いて振り返る。すると、柵の向こう側に青年が立っていた。誰か。知っている。

シェリルの顔から表情が抜け落ちた。胸を刺の鎖で締め付けられる。どうにかして普通に戻ろうとした感情からまた熱を奪われた。壊れそうなものを掴むように、少女は青年の名を読んだ。

「た、タナーさん」

「こんにちは」

時刻は十時をまわっている。珍しい。普通なら仕事中の時間のはずだ。休みだろうか。なにから言おうかシェリルが迷っていると、タナーが微笑んだ。その微笑みの奥に、うすら寒いものを感じたのは気のせいだろうか。

「昨日は見なかったけど、どうしてたの?」

「き、昨日ですか。その用事があったんです。それで」

嘘だった。昨日は一日中ミーリアと一緒にいたのだから。タナーは、そう、と小さく頷いた。

「じゃあ、また。・・・・・・僕も用事があるんだ」

タナーが去った後、ふと、シェリルは彼が立っていた地面に視線を落とした。日の当たる場所で、風通しも良い。なのに、花が枯れていた。白く可愛いらしい筈の花びらが萎れ、茎が重みに耐え切れずに垂れている。

雨の降らない日が続いたからであろうか?

如雨露を探しに、シェリルは物置小屋に向かった。

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