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イリーズとハイネが接触する十分前。


教会へと続く石畳の街路をシェリルは疾走していた。顔に浮かべる表情は焦燥の一色だ。辺りには誰もいない。楽しい祭の真っ最中に、わざわざ静かな教会に行こうとするものはいないだろう。

故に彼女は一人。好都合だった。保険で持っていた聖具を発動させ、身体を強化する。馬よりも早く、シェリルは風になった。

それでも、遅い。ああ、なんて醜態。もっと早く気付いていれば。

異変を感じたのは十数分前だ。なんの前触れもなく、どす黒い『なにか』が現れた気配がしたのだ。シェリルは悪魔憑きやハイネが関係していると理由もなしに思い至った。それ以外になにがある?

そのことをミーリアに伝えると彼女は、『あんたは先に教会へ行きな』と、どこかへ消えてしまった。だから、シェリルは現在本当に独りなのだ。

(いったい、なにが起こったの?)

自分が朝までいた教会で異変がドロドロと沸き上がっている。堪らなく苦しかった。どうしてもっと気付けなかったのか。回避する方法はなかったのか。

せめて、聖具をもっと隠し持っていれば。

「――炎華を咲き誇れ。我が元に集いて邪悪を罰せよ!!」

シェリルは、檜木で作られた三角形のピースをポケットから取り出し、前へと投げ付けた。真っ直ぐに飛ぶ三角は、

「あんた達に構っている暇なんてないのよっ!」

上空から降ってきた悪魔憑きに命中し、真っ赤な炎を華開かせた。大柄の悪魔憑きを余すことなく燃やし尽くし、消し炭にかえる。

だが、

「くっ」

足を止め、シェリルは歯噛みした。悪魔憑きは一体だけではなかったのだ。どこからともなく姿を現し、どんどん増えていく。

水晶の指輪を左手に嵌め込み、シェリルは突っ込んだ。呪文を破棄して氷の剣を編み出す。言葉にならない声で叫んだ。

一分でも一秒でも早く、教会に着かなければならない。悪魔憑きの首を真横に切断し、後ろから襲いかかってきた相手を逆に貫く。

(この聖具は長くもたない。直ぐに倒さないと)

その焦りが隙を生んだ。突如として地面が膨れ上がるように爆発したのだ。小石と土が散弾のごとくシェリルへ迫る。中位の悪魔憑きは異能を行使する。そんな当たり前のことを焦りで忘れてしまっていたのだ。

「きゃっ!」

右足をえぐりかけられるが、なんと回避する。だが、体勢を崩したシェリルにはもう、なす術がない。無惨にも悪魔憑きの爪が彼女の眼前へと振り落とされ、


――――――――間に合った。渇いた破裂音が鳴り響き、悪魔憑きの腕を吹き飛ばす。


「I bo wlj hvvn yq yl glehv!!」


後ろから聞こえたのは懐かしい声だった。そして、輝く光。真横だったシェリルの影が強引に正面へと伸びた。それを追い越して金色の矢が降り注ぎ、悪魔憑きを数体纏めて貫いた。

なにが起こったのかわからず、思わず振り返ったシェリルは彼女の姿を見て、目から熱い滴を落とす。どうしてここに?

左右アンシンメトリーな髪型に、際どい修道服が久しぶりだった。シェリルとぴったし目が合う。すると、病み上がりだというのに、彼女は苦痛を表に出さず、あえて明るく言ったのだ。

シェリルには、天使が笑ったように映った。

「リズ様登場!!助けに来たよ、シェリル」

リズは両手に一丁ずつ回転式拳銃を構えていた。右手にドラグーン。左手には銀の装飾を施された、パーカッションリボルバーの傑作、レミントン・ニューモデルアーミー。

「リズ。リズ、リズリズリズ〜!!!」

ありがとうってお礼も言いたかった。どうしてここにって首も傾げたかった。シェリルは溢れ出る嬉しさで胸がいっぱいになる。抱き着きたくなる衝動を抑え、氷剣を構え直した。

「凍える追想を奏でし宝玉よ、我が声を聞け。されば刃を鍛えん!」

氷剣にマナが送り込まれる。冷たさは増していき、刃は鍛え直される。同時、リズがドラグーンとニューモデルの引き金を引いた。そのまま突っ込んでくる。

剣を構えたままシェリルは半回転し、悪魔憑きを払う。踏み込みは爆発を生み、攻撃を避ける。その間に距離をつめたリズは、彼女と背中合わせになり、

「久しぶりだけど合わせられる?」

こんな状況なのに、その言葉が胸に染みた。シェリルは短く、一言で応える。

「もちろん」

これまで幾度となく繰り返した二人での戦闘。

爪を振り上げた悪魔憑きをリズはその爪ごと両断した。遠くから火炎やら電撃を放とうとした悪魔憑きはリズが撃ち貫く。

リズが身を屈め、空になった空間をシェリルの剣が穿ち、悪魔憑きを払う。逆に、リズが腕を左右に広げて近付いてくる敵を倒す。

二人の力が合わさり、それは嵐となった。悪魔憑きをシェリルが斬り、リズが撃ち抜く。戦友に背中を預け、次々と悪魔憑きを葬り去っていく。それはまるで踊っているようで、負ける気がまったくしない。

その間に、リズはこれまでのいきさつを話した。教会が襲われたこと。そして、地下で儀式(イリーズがセレスに言っていたのだ)が行われていることを。

「じゃあ、リズはなにも知らなかったの?セレス様にも会ってないの?」

右手を頭上、左手を背中へ回し、器用に二体の死体をつくったリズは訝しげに言った。彼女が自分の教会からこっちの教会に来たのはセレスから儀式があると言われたからだ。

セレスは魔女に会うために森へと向かった。盲目の剣士に、迷子の魔法は効かないらしい。リズは一足早く元凶へと向かったのだが、ここまで近付いてやっと気付けた。

教会が直ぐ傍にある。ドロドロとした得体の知れない暗い『何か』が溢れて出ている。

「シェリルは祭に行ってたんだよね?」

「そうだよ」

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