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笛や太鼓、ラッパ。はたまた、花火の音が世界を祝福するかのように鳴り響いた。
合わせたわけでもないのに、耳に心地よく、胸が熱くなる。天を見上げれば空は、快晴という言葉が実に似合っていた。
毎日活気溢れている都市が、一段と喧騒と歓喜に包まれている。
そんな中で、
「お」
「ま」
「つ」
「り」
「「「だ〜!」」」
第七区教会、修道女達の部屋で、修道女達がはしゃいでいた。皆が意気揚々としている。いつもの修道服ではなく、町娘のような服装だ。実に、実に愛らしい。彩り溢れ、可愛い少女達がさらに輝いていた。あまりの眩しさに後光さえ差している。
その中で、ただ一人シェリルだけが、げんなりしていた。負のオーラを体から垂れ流している。椅子に座り、地面に届いていない足を交互に揺らしていた。
「・・・・・・皆さ。テンション高過ぎだよ」
今日は祭当日。いつもは質素に欲を禁じている彼女達も、暗黙の了解により、遊ぶことを許されているのだ。当然、盛り上がるはずなのだが、シェリルは町服に着替えたものの乗り気ではなかった。
あれから数日、ハイネ・グリーズの消息が掴めていない。
こんな状態で祭が楽しめる皆が羨ましかった。当然、他の修道女達も心配していないわけではない。むしろ、暗鬱とした気分をどうにかするために祭を楽しもうとしていた。
ゆえに、テンションが妙な方向に高まっている。
「遊びまくるぞー!」
「「おー!」」
「私についてこれるかー!」
「「お前がついて来ーい!」」
いつも一緒の仲良し三人組へと、ライネが呆れ気味に声をかけた。
「あんた達、もう少し静かにできないのかい?」
「おーっと!そう言うライネはなにさ髪飾りなんてつけてさー。もしかしてデート?」
青い羽根を模造した髪飾りを指摘され、ライネはわかりやすく狼狽した。
「ば、馬鹿!そんなんじゃないよ。あの人とは趣味が合った友達同士で別に恋人なんかじゃ」
ライネは嘘をつくのがとても下手だった。修道女としては正しいだろうが、この場では火に油を注ぐようなものだ。
「え、図星?」
恋話に飢えている数名から詰め寄られ、ライネの姿が見えなくなった。シェリルは彼女と親しげだった背の高い男性を知っていたが、言わないことにした。その方が平和の為になるだろう。
「えーい!私はやけ食いだー!暴食は禁じられてるとか関係なーい」
「私は小物集めをしようかな」
「今年こそは壁同人を目指すわ!司祭様に内緒でタイプライターを使ったの」
「おい。それってまずくない?」
皆が祭を有意義に過ごそうと脳内で妄想を膨らませている。
もうすぐで司祭様から祭への出撃許可が下される。だが、どうしても楽しい気分にはならない。
「私、どうしよう?」
また、花火が鳴った。腹に重く響いて辛い。
かくして、祭が始まる。人の歓喜も不安も全てを飲み込んで。
◇
「神は人に火を与え、人は火を使い武器を作ることを覚えた。そして長い長い時が経った今でも、人の世から争いがなくなることはない。・・・・・・しかし、火があるからこそ、人は恩恵に授かれた。そう」
モギュッ、とかぶりつく。
「この、ミートパイのように」
シェリルは牛肉七、豚肉三の黄金比を誇る焼きたてのミートパイを食べながらご満悦だった。宗教上、肉は食べていけないのだが、今日は祭なので『パイの中に入っていて気が付きませんでした!』と言ってもセーフになる。
仕方なく、そう仕方なく祭を見てみれば、そこには理想郷が広がっていた。辺りに美味しそうな匂いが漂い、お腹が鳴ってしまう。シェリルはすでに、ミートパイと冷やした南国の果実、鱒の塩焼きなどを胃に収めていたが、まだまだ足りなかった。
所詮自分はこの程度の女。シェリルは自嘲するように薄ら笑いを浮かべる。どうせ食べ物があれば満足ですよー。
「ふふふ。この程度で私の胃袋が満足するとでも?」
さて、次はどこの出店に行こう?シェリルは楽しそうに人混みの中を歩いていく。
「なーにやってんのさ。あんた」
その人物が視界に映り、体が硬直した。最近自分で作った色付き眼鏡をかけた美女。ただし、猛毒をもつ最凶の人物。いつも通りのゴシックロリータを着込み、シェリルの傍に立つ。
どうしてここに?シェリルは目だけで訴える。ミーリアは意地悪そうにこたえた。
「祭を見にきたのさ。森の中の静寂も好きだが、こういうのもたまになら悪くないからね」
どうやらただの偶然らしい。こんな偶然勘弁してほしいのですが神よ。シェリルは力無く溜め息をはいた。
「そうだ」
ミーリアは、ぽんと手を打つ。
「どうだい?」
なにが、どうだい?だ。シェリルはとても嫌な顔をするが、ミーリアは気にせずにウインクした。大抵の男なら簡単に騙されてついていってしまうだろう。
シェリルは断ろうとして、
「仕方ありませんね・・・・・・」
ミーリアの気持ちはわかっているからこそ、無下にはできなかった。
シェリルだって独りは苦手だ。それは、魔女だってきっと同じだから。
きっと、二人の方が楽しいだろうから。
「もちろん。奢りですよね?」
「はいはい。任せなさいって」
ミーリアは肩をすくめて、大人の余裕を見せた。
こうして、小さな擬町娘風修道女と魔女は二人並んで歩き出した。二分後、『屋台荒らし』という伝説をつくるとも知らずに。
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