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ジェシカは、ミーリアが魔女だと知っている。不可思議な力を使うとも知っている。だが、怖いなんて気持ちはない。彼女にとって、大切な友達なのだ。

数週間前、幼女が魔女に会いに行くのが遅くなったとき『なにも持ってこなくていいから遊びに来ていいよ』と寂しそうにミーリアが抱きしめたジェシカに言った。

いつも一人なんですか。そうジェシカが聞いたとき、『そうだよ』とミーリアは短くこたえた。

「あの、今度、畑の仕事をお手伝いします。私、草むしりが得意です」

「ああ、お願いするかね」

「・・・・・・はい!」

家と帰るジェシカの後ろ姿を、ミーリアは森の中に消えるまでずっと見ていた。小さく、手を振りながら。シェリルはクッキーをサクサクしている。

ちょっとついていけなかった。紅茶のお代わりが欲しくなったのでティーポットに手を伸ばした。



「では、私もそろそろ帰ります」

「そうかい。なら、私もついて行こうかね」

鞘に収めた剣をケースに隠したシェリルは、とても嫌な顔をした。夕食に人参が出てきたくらい嫌な顔をした。ミーリアを嫌っているのではなく、教会に来られると困るのだ。

信者の方達に見られたらどんな噂が立つかもわからない。それに剣なら受け取ったはずだけど、とシェリルが目で訴えると、ミーリアはあっさりと答えた。

「それ、未完成だから」

・・・・・・絶対に聞きたくなかった言葉だった。未完成って、さっきまで貴女遊んでましたよね!?怠けていたんですか!?シェリルの心情を察したミーリアは、肩に手を置いた。

「調整が終わったら完成さね。安心しな」

「それなら構いませんけどね。しかし、剣を鍛えるのは鍛冶師だけだと思っていましたが、貴女は誰かに弟子入りしたんですか?」

「まさか。これは私のオリジナルさね。私が誰かの弟子になるとでも思ってんのかい?」

ですよねー、とシェリルは納得した。どこをどう見ても誰かに頭を下げるような人間には見えない。むしろ、脅してでも技術を盗みそうなかんじだ。

根掘り葉掘り問い詰めたかったが止めておこう。シェリルは黙って扉を開けた。

ミーリアは人の丈程もある黒いケースを肩に悠々と提げた。中身が軽いのか、それとも、彼女が力持ちなのか。この人ならなんでも有りな気がしてくる。

「さあ、行こうかね」

ミーリアの後をシェリルがついて行く。あれ、普通私が前じゃないんですか?・・・・・・なんか、もういいや。少女は黙った。



まさか、馬車で帰ることになるとは思わなかった。森を抜けると、老年の男性が待っているものだから二度驚いた。どうやら事前にミーリアが手配していたらしい。

二頭付きの馬車は貴族専用とも言われる。シェリルは縮こまって外から見られないようにする。ミーリアは色付き眼鏡越しにのんびりと風景を楽しんでいた。服はいつもと同じ。聞けば、同じ服を何十着と持っているらしい。

空は相変わらずの晴れ模様。夏が近いせいか少しだけ暑い。今日洗濯物を干したらさぞかしよく乾くだろう。

そういえば私って一日分仕事休んでいたんだっけ。シェリルの頬にうっすらと冷や汗が流れた。教会に帰れば聖母の像がある。

自分の行動を思い返す。街に出てお菓子食べて、夕食にご馳走食べて、豪勢な朝食を食べて、さっきはケーキ食べて・・・・・・・・・・・・食べてばっかりじゃん!私の馬鹿。それでも修道女か!

自己嫌悪に陥っている間に教会へ着いた。

「ああ、懐かしの我が故郷」

感動で涙が溢れた。急いで馬車を下りると、呼ぶ声が。

「シェリルー!」

教会の扉が開かれ、赤毛のライネが駆け寄ってきた。ギュウと抱きしめられる。友の温かい抱擁に、心まで暖かくなってきた。

「ライネ。・・・・・・ただいま!」

「あ、シェリルだ!」「皆シェリルが帰ってきたー!」「大丈夫。本物のシェリル?」

シェリルの身を心配していた修道女達が集まり輪になる。中心の少女は嬉しくて堪らなかった。

しかし、

「やれやれ。仲良しさんだね、あんた達は」

馬車から下りたミーリアの登場により、場の暖かい空気は完全に凍りついた。

「魔女・・・・・・ぶくぶくぶくぶく」「あははは。がくり」「ちょっ、サラ?ターニャ!?」「胸でか。エロすぎ」「私初めて見たー」

サラとターニャが気絶し、他の皆も困惑しているようだった。一番年上のお姉ちゃんポジションのライネだけは気丈にしている。

ミーリアは、めんどくさそうに目線でシェリルに合図した。こいつらをどうにかしろ、と。

シェリルが声を出しかけた。そのとき、被せるように別の声が。

「来たか。緋色の魔女よ」

悪魔憑きとの戦いで感覚が鋭敏になっているシェリルだけでなく、全員が肌に突き刺さるような寒気を感じた。その発信源は扉から。

纏っているのはいつもと同じ服。違うのは雰囲気。司祭・レジラントから発せられる殺意にも似たプレッシャーに、シェリルは息を飲んだ。これが、あの司祭様?まるで別人ではないか。

呼ばれたミーリアは、くすりと微笑んだ。彼女は、現役時代のレジラントを知っている。まさしく、今の彼のようだった。

向けられた殺意もどこ吹く風と、ミーリアの表情は変わらない。

「老けても相変わらずだね。まさか、私を懲罰しようっていうのかい?」

「まさか。全盛期の私でもお前に傷をつけることはできん。なにより、そんなことをしている暇なんてないだろう?」

レジラントの表情がわずかに緩んだ。ミーリアは溜め息混じりに頷き、教会内に入る。シェリルも慌てて後ろをついていった。

残された修道女達は、しばし呆然とし、

「と、とりあえず持ち場に戻ろう。誰かサラとターニャを運ぶの手伝ってー」

ライネの声で、皆持ち場に戻った。

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あきゅろす。
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