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休憩A


「ただいま〜」

ウエストブロックの一番隅に私の『家』がある。元はアパートだったのだろう。半壊どころか8分7壊していて、この1室が残っているのがキセキだ。
かろうじて水道は生きている。シャワーと浴槽が使えるのが有り難い。電気は流石に潰れていたので、配線屋に頼んだ。
8畳1部屋にキッチン付きで、床下に武器庫を。このまま2個分隊が完備可能。窓硝子は強化済み。壁もだ。軍用の素材が『商品』として売っている。
ブラックマーケット様様だよ。

「ふう。徹夜は辛いぜ」

私の仕事は簡単に言えば何でも屋だ。
金で『殺し』以外は大体する。


矛盾だって思っただろ?


私は自分の生命が脅かされないのなら殺しはしない。せめてものルールだ。
死神が殺人中毒になって鎌を振り回すなんて滑稽な話だろ?

汝殺す事なかれ。

汝殺される事なかれ。

二律背反の落とし所さ。

「さーて、遅い朝食でも」

必要な分を財布に。ここではカードなんて使えないから、余った金を隠し金庫に入れ、P226のマガジンを補充。念入りに掃除も。って言っても、銃身、フレーム、スライドを分解しただけだけど。このレベルは通常分解で、工具なしで可能だ。

あちゃー。
そういや、ナイフ1本壊したんだっけ。
適当な代わりを探すか。
チタン合金が希望。グリップが握りやすかったらなおオッケー。前に間違ってバネ式の刃が飛び出すナイフを買っちまった。


あれはいけない。





こんな場所でも人間は食にたいして貪欲で、屋台が色々と出回っている。

「いらっしゃい、レオ」

「いつものお願い」

野外に設置されているテーブル付きの椅子に座る。
このイタリア系のおばさんの屋台が私の好み。

「どうだい景気は?」

「普通かな。おばさんの屋台は?結構混んでるじゃん」

「皆ちゃんとお金を払ってくれればね」

と、言っているそばから、お金を払わずに屋台から逃げる奴が現れた。バイクに乗ってガンガン加速する。
おばさんは少しも慌てずに固定式台に準備されてあるスナイパーライフル、H&K社のPSG―1を構えた。

オートマチックは弾丸が放たれるさいに銃身内部で部品が可動するから、単純構造で堅固に造れるボルト・アクション式と比べたら命中率は落ちる。それでもこいつは300メートルで6センチの円内に当てる精度を持っている。

開発のコンセプトは対テロ用の使用を想定してだ。迅速な対応が必要になるからこそ、オートマチックの精度が求められる。

全長1208ミリ、重量は8100グラムもある。おばさんは20発入りの着脱式マガジンボックスを備えていた。スコープを覗き、迷わずに引き金を引いた。空気が質量をもったかのような快音、さらにもう三発。7.62×51NATO弾が音を軽く置き去りにして、
・・・・・・バイクが爆発した。

「うへー」

「あんた達もこうなりたくなかったら金を払いな!そうすりゃネメシスだって眠りから起きないだろうさ」

各テーブルから笑いが起こる。

こんな光景も、ここの日常。

「魔弾の射手が衰えない限り、安泰だね」

「私の手は料理を作るだけじゃないんでね。はい、おまちどう」

私の顔の1.5倍ぐらい大きい皿に、山にされたカルボナーラが盛られている。

「いただきまーす!」

鼻に染み付いた血の臭いを忘れるように、私はパスタを口一杯に詰め込んだ。

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あきゅろす。
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