おはじき途々
裏口から出ると、数十の重なる足音が近付いてくるのが分かった。普通の足音じゃない。まるで、統率のとれた軍隊のように乱れなく均一で早い。
私は辺りを見回した。左右が壁に阻まれていて狭い。前後から挟まれると厄介だな。
それに暗い。擬似太陽がなくても明るい場所は珍しくないが、此処は例外らしい。こう薄暗いと反応が鈍ちまう。
「見付けたぞ!」
曲がり角から男が飛び出してきた。装備はアサルトライフルと、深紅の槍の紋章って赤枝の防服!?・・・・・・なるほど。今度は本気って訳か。
重ならない銃声。
「それ言う暇あったら指動かせ屑!」
ッパアン!
服の部分は狙えない。聞いた話だと、あれの素材はファイン・セラミック・プレートとスペクトラ繊維。P226のような9oパラベラム弾ではダメージを与えられない。数発なら、9パラの倍以上の力学エネルギーを持つライフル弾さえ防ぐ。ゆえに、私が狙ったのは外気に剥き出しにされた頭部。鼻を砕き、血の花を代わりにそえる。崩れ落ちると同時、私の横を魔風が駆け抜けた。
「参ります」
身を低く疾走した咲は薄闇へと、刀を横なぎに払った。
「次の人生では幸せに。あなたに魔神の加護を」
ぐちゃ。
膨らました風船ぐらいの大きさをもつ頭部が落ちて転がる。慣性で転がったかと思うと目があった。
「ラッキーじゃん。痛みどころか、自分が斬られたことすら分かってないだろ」
どしゃり。やっと首無しの死体が崩れ落ちた。
次々と近付いていく足音に私は焦りながらも、体の震えを精神で捩伏せる。
走る。ただひたすら逃げる。
「後ろから来たし〜!!」
ヨシュノが後方へ、ベレッタM12で9oパラをばらまく。しかし、
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!
倍になって返ってきた。
「ふ、ふざけんじゃないし!このキャミは私服で、防弾じゃないわけ!きゃん!?ちょ、頭掠めたあ〜!」
なら着るな馬鹿。それで色気作戦・・・・・・は、無理だな。口元にパスタソースを付けた凹凸皆無少女に興奮するっていうなら話は別だが。
「あらあら。撃つだけが能じゃないわよ?」
ミストが何かを後方へ投げた。
「あ、前向いてないと目が潰れ」
バシュッ!!
闇を塗り潰す太陽のごとき白光が私の前を走り、一瞬だけ影をつくりだす。正体はマグネシウムと過塩素酸カリウムの燃焼反応で生まれる閃光で人間の行動力を奪う非致死性の携帯兵器、スタン・グレネードだ。夜闇に慣れた目に、これは痛烈だ。昼間の襲撃なら対閃光用のゴーグルでも装備しただろうに。だが、敵だって百戦錬磨の集まりだ。咄嗟に目を守れた奴もいるらしく、足音は消えない。
「お次はこっち」
ミストがさらに何か投げる。
パン。パパン。パパパパパパン。
「音を銃声に似せた爆竹でーす」
私の耳元でミストが囁く。凝ったもん作りやがって。
敵の足並みが乱れてきた。んー。どうも赤枝にしては生温いな。罠か?いや、関係ないね。全部ぶっ飛ばす。たとえ地獄の番犬がいようと銃声の竪琴を使うのみだ。
ひりつく殺意。
「前!?いや、降ってきた」
数は五人、やばい挟まれる。
「咲、右だ!」
私は腰のホルスターに収めてあるナイフの柄を握った。
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