休憩C
大理石の床と、木材の壁の室内を満たしているのは、柔らかい白熱灯の光と涼しい空気。
そして、軽やかな旋律。
カウンターでは老バーテンダーが棚に鎮座した百を越える酒を自在に混ぜ合わせ、客の注文した通りのカクテルを作っている。
「ええと、どこだ?」
今夜はミストお勧めのバー・ティルナノーグで飲むことになった。
あまり広くもなく10歩も進むと、こっちに手を振る淑女を発見した。
1番奥のカウンター席に陣取り、既にグラスを傾けている。
ほろ酔いって・・・・・・私が来るまで我慢しろよ。
「遅いわよレオ」
「主様が早いだけです」
隣の咲(律儀にまだ飲んでいない)からのツッコミにミストは笑いながら右手をヒラヒラと振った。
「気にしなーい気にしなーい」
「はいはい」
私はミストと挟むように咲の隣に座り、辺りを見回す。
客は私達を抜かして8人。年齢、性別はバラバラでも共通点が1つ。
全員が当たり前に武器を携帯している。
まあ、気にしすぎか。一様コレも持ってきたし、咲もいる。心配は無いだろう。
「ご注文は?」
「うーん。ウイスキーベースの暖まるやつでお勧めとかある?」
「そう、ですね。アイリッシュ・コーヒーなど如何ですか?きちんとドリップしたコーヒーですよ」
「じゃあ、それで」
老バーテンダーがアイリッシュグラスに角砂糖を2つ入れ、ホットコーヒーを7分目まで注ぐ。さらにウイスキーも注ぎ、手早くバースプーンで掻き交ぜると茶褐色の液体が生まれた。そして、ホイップした生クリームをフロートして完成。
「レオったら悪趣味ね。そんなのお酒じゃないわ」
「これが好きなんだよ」
グラスを持ち、飲む前にする恒例の挨拶を自分と2人に捧ぐ。
「「「乾杯」」」
早速1口。
始めにコーヒーの苦みが舌を刺激し、アイリッシュウイスキー独特の甘みが胃に染み渡る。
鼻孔を擽る豊かな香りが、最高に素敵だ。
アルコールは好きだけど、ミストみたいにウォッカとライムで半狂乱する飲み方は好きじゃない。そんなのは咲という凄腕の用心棒がいる奴の特権だ。
咲が飲んでいるのはノンアルコールのアプリコット・ジンジャー。
こいつは下戸だ。子供っていうとキレて刀を振り回すから、私は黙ってグラスの中身を飲み干し、お代わりを注文する。
飲むだけだと胃に悪いから肴も幾つか。
「うん、美味い」
こんな風に酒を飲むのも久しぶりだな。
「あー!もう始まってるしー!」
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