氷鬼開
「誰だテメエ?」
元々待機していたのか、敵を全員殺ったら1分と待たずに男が現れた。気障ったらしい白いスーツにサングラスがムカつく。
「赤枝の5番隊サブリーダー、チャカ。よろしく」
「あれはお前の仲間か?」
「これか?まったく、もう少し役に立つと思ったんだけどな」
チャカは残念そうに、咲が切った頭をサッカーボールみたいに蹴り飛ばす。
2、3度バウンドした頭は地面に肉片をこびりつかせながら無言で止まる。
胸糞悪い光景に私は引き金に指をかけるが、狙撃手がいるのを思い出して断念。
「ああ、狙撃ならないよ。そういう契約たがら」
「話が見えてこないね。なにが言いたい?」
チャカは両腕を広げ、3流以下の4流レベルの演技で語りはじめた。
「仕事を頼みたくてね。うちらみたいに規模が大きいと逆に困るわけ」
「そこまでして隠したい仕事、か。口封じまでして御苦労だな」
「あははは。あれは上手く仕事が出来ないからだよ。ちゃんと完遂してくれれば報酬が出る」
きな臭い。今、全ての情報が偽りの匂いを漂わせているようだ。
「で、仕事の内容なんだけどさ」
私は錯覚していた。
この場には私とチャカしかいないと錯覚していた。
そんなわけないのに。
だって、
「・・・・・・第2期実験素体研究資料、零から参号。別名、『天害乙女』」
私は、背中に熱せられた鉄棒を押し当てられ・・・・・・
たと、勘違いする程の紅蓮の幻痛を感じた。
(さ、さき?)
私は口を開けれなかった。
首も動かせない。
私の後ろに咲がいる。ゆっくりと近付いてくる。
足音は聞こえない。
だけど、分かる。
近付いてくる。
抜き身の刃そのものと成った咲が、私の眼前に、チャカとの間に割って入る。
しっかりと視界に咲を捉えたというのに、あまりに静かで、まだ確信がもてない。
(本当に咲なのか?)
「へえ。ただの武器店の店員だって聞いていたけど、君は?」
チャカは、たいして面白くもなさそうに咲を見る。よほど鈍いのか殺気に気付いていない。
「・・・・・・これ以上、探し物をするなら黄泉平坂を転がる運命になるぞ」
「人の話聞いてないの?いい?俺は君に用はないわけよ。分かる?」
自信たっぷりにチャカは腰のホルスターから大型口径のリボルバーを抜いた。
真っ直ぐに咲の胸を狙う。
時代遅れの刀に銃が負けるわけない。
そんな風に思っているんだろう。
確かに、2人の距離は10メートル以上離れている。
刀の射程と銃の射程は歴然の差が。私が見た咲の動きは剣士として1流でも、これじゃあ。
(なにか、なにか方法は無いのか?)
私はもう1つ勘違いをしていた。
何故、咲が私を頼らなかったのか?
否。
頼る必要が無かったのだ。
そして、
(なんで、あんなに怒っているんだ?)
咲は、刀の柄を両の手で握り、ユラリと構えた。
「・・・・・・・・・・警告はした」
あまりに静かな踏み込み。
「なっ!?」
チャカの驚愕がよく聞こえる。
彼我の距離10メートルの半分を、咲は僅か1歩で凌駕したのだ。
相手の呼吸に合わせた完璧な移動の技に私は思わず見とれてしまった。
「ちぃっ!!」
チャカは膝を畳んだ咲へと銃口を向けた。
ドン!
チャカはいよいよ顔を青ざめさせた。
ドンドンドン!
当たらない。ただの1発も咲に当たらない。
紙一重で咲は弾丸を躱す。
私も相手の身体の動きを見て弾丸を避けられる。だが、それは足に力を込めておおざっぱにがやっとだ。
咲の動きは私とまるで違った。
チャカの動きの方が遅い。
咲が動き、つられるように虚空へと引き金を引く。
(まさか)
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