独楽回し閉
私は腰のベルトから手榴弾を2つ掴み取った。
手榴弾にも幾つか種類があるけど、私が持っているのは破片を飛ばして敵を殺傷させる『破片手榴弾』だ。
「特製のタスラムだ。1つやるよ」
咲に手渡す。
「あっちに投げるだけだ。簡単だろ?」
勝負は一瞬。私と咲はピンを抜き、手榴弾を向こう側の開いた窓目掛けて投げる。
放物線を描かず一直線に飛んだ2つの手榴弾は室内に入り、爆発。吠える大気は幾十の銅鑼となり、紅蓮の炎が色を添える。脆い壁は簡単に吹き飛び、続いて悲鳴。
弾殻の破片を喰らった赤枝の人間が逃げるように出てきた。ゴロゴロと楽しく転がる。見ててこの前食べたマズイかき揚げを思い出した。
室内にはジグソーパズルに成り果てた人体もあるだろう。
被害の無かった別の場所からも沸いて来る。
「■■■■■■■■!!」
折り重なる幾十の発砲音。撃ってきやがった。全員で10人。装備は・・・・・・ええー!9ミリ機関けん銃!?。流行ってんの?流行ってんのそれ?
(あれが標準装備?・・・・・・いや使える銃をかき集めたのか?ウージーとベレッタも混じってやがる)
ガリガリと削られていくコンクリートの壁は余りに頼りない。
突っ込んで来られたらさらに不利。出ても狙撃手の餌食になるだけ。
・・・・・・くだらねえ。
私はP226の引き金を4度引いた。腕にかかる衝撃に耐えると、右端の2人の頭に命中。脳髄を小さな悪魔が貫き、停弾。絶命。
仲間が殺されたからか、銃声が途絶えた。そりゃあ隣の友達が死んだらビックリするわな。そんな隙を刀神は見逃さなかった。
「参ります」
律儀に言ってから咲はひしゃげた窓枠に足をかけ、跳んだ。刀を隻翼とし、敵の頭上を逆さまに舞う。女、いや、男でもまずありえない距離を咲は跳ぶ、飛ぶ。
「■■■■■■!?」
真上は死角。
そのうえ、空へ弾丸を撃つと重力落下で戻ってくるから撃てない。
「ふっ!」
咲は服に仕込んだナイフを投擲し、私がしたように敵1人の頭に刺す。残り7人。
咲は着地して敵の後ろをとると、心底不快そうに、
「邪魔です」
真横に刀を振るった。風を切る音さえしない。
鋼の一線は敵の胴体を半分に切断。咲が軽く振るって刀の血糊を払い、それに遅れてからズルリと上半身が滑り落ちる。
漏れだした臓器は扇状に広がり、隣の仲間の靴の裾を汚した。
(さすが侍)
あの至近距離では同士討ちになる。そうならないように移動しようとするも、私がさせない。
廃ビルから脱出した私は、疾走し続ける。
ビス!!
ライフル弾が腕を掠める。外傷は無い。やられたのは服だけだ。
服が喰われた位置と着弾点の延長を逆算。
(あそこか!)
4階建ての屋上。ここからだと300メートル先。
拳銃の有効射程範囲を完全に越えている。
私は出来るだけ建物に近付き、影になるように範囲内から離れる。
咲は敵を盾にして絶妙に立ち回る。
サブマシンガンの銃口を屈んで回避し、グリップを握った腕を切り落とす。
「ちっ」
P226が弾薬を撃ち尽くし、スライドが後退したまま戻らなくなる。弾切れだ。
「咲!」
「任せて」
咲がカバーしている間に空弾倉を排出し、新しい弾倉をグリーンの底部へ叩き込む。これでスライドストップ・レバーを押し下げれば、カチャンと後退していたスライドが戻り、
はい、元通り。
もはや、敵は烏合になり的でしかない。その間、私は援護射撃を繰り返す。瞬く間に数が減っていく。
(妙だな)
歯ごたえがなさすぎる。狙撃手は道を挟むように2人用意するのがセオリーだ。サブマシンガンにしたって横一列に並ぶだけで芸が無い。接近戦になれば拳か銃以外の武器を使うべきだ。
けど、あいつらはなんだ?
(・・・・・・成る程、な)
「そこまでだ!」
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