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休憩B



飯をたらふく食った後、私はナイフを探しに武器店まで歩いていた。良い意味でも悪い意味でもここには活気が有り余っている。
喧騒の中にも蜘蛛の糸みたいに細い論理が張り巡らされているんだから不思議だよ。

ここは数少ない、緑の被害がなかった大通りで、ところ狭しと露店が立ち並んでいる。運よく形を保った建物を使った店もあり、保険屋と駄菓子屋以外は私の知っている限り発見した。

「お、やってるやってる」

看板に大きい字で『アイスクリーム屋〜ホズ〜』と書かれている目的の店を発見。しかし、私は正面から入らず、路地裏の隠し扉からこっそりと中に入った。

「あらレオ。久しぶりね。いらっしゃい」

「・・・・・・4日前にもあったよね?」

「そうだったかしら?」

ちょっと惚けたこの素敵な米国撫子風美淑女が偽装武器店のオーナー、ミストだ。髪は金色のロングストレートで、瞳はグリーン。スタイルが良く、このまま違う商売も出来そうだ。他の店員は真面目にアイスクリームを売っているのが3人と、真面目に武器を売っているのが5人と、小規模ながら結構繁盛しているらしい。

店の中には武器と問われた人間が答えるたいていの武器が存在する。

もちろん。ナイフも沢山。クリアケースの中で静かに行儀良く並んでいる。

「シース・ナイフを1本欲しいんだけど。刃渡りは21センチから27センチセンチ以内で、片刃の反り有り、チタン合金の」

言いかけ、

「ナイフは鋼よ!」

ミストから1本のナイフを突き出される。

眼前に・・・・・・シースぐらい付けてよ。

「刃渡り22センチ。反りは1.8センチ。系統は炭素を過飽和状態に固溶したα鉄の組織。組成式は18Cr‐1C。記号はSUS440Cの」

言いかけ、

「マルテンサイト系。ステンレス鋼の中で、最高の硬さを持つ。だろ?・・・・・・この金属ジャンキーが。テメエはガヴィダかよ」

「あんな杖振るだけの爺と一緒にしないでよ。金属はカクテルと同じで芸術なの。熱と合わせる元素の種類、鍛造か鋳造か。炭素のパーセンテージの絶妙な」

「長い!ああ、もう!あんたの性格だからソレしか売ってくれないんだろ?」

正解と、にんまり笑うあたり、私は逆らえない。P226の弾薬だって、ここで買っているんだから。

「今ならコレもオマケしちゃう」

渡されたのは手の平に収まる程小さい銃だった。

「デリンジャーなんているかー!」

デリンジャーって言われて想像するのは上下2連の中折れ式の小型拳銃だろう。正しく、コレがそう。

「ただのデリンジャーじゃないのよ。形こそ、スタンダードM6・22LRだけど素材が違うの。グリップとかにイリジウムを埋め込んだのよ」

元素番号77番、Ir。

密度は約22570kg/m3と鉛の2倍の重さを持つ。

デリンジャーの長所であり、短所が『軽さ』だ。

作用反作用と呼ばれる世界共通ルールがある。
噛み砕いて言えば、弾丸が発射された時のエネルギーは全て銃本体が受け止める事になるってわけ。

デリンジャーで弾丸を撃つと、反動で文字通り『銃が踊る』。

「これだけ重いと反動もかなり低減出来るわ。強度実験も実地済み。どう?買わない?」

「イリジウムってレアメタルだろ。無駄全開にもったいないな。馬鹿だろ。値段は?」

「サンプルだからタダで良いわ」

「え、本当?」

気前良いなー。私が早速貰おうとすると、ミストは一言付け足した。
変わらない笑みのまま。

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あきゅろす。
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