十人十色 微、積極色 日曜日の駅前。俺、黄坂火墨は彼女を待っていた。 もちろん。デートをするために! (久しぶりの休みを、流皆と二人きり) 考えただけで顔がにやけてしまう。髪形もOK。服もバッチリ。後は流皆が来るのを待つだけだ。 (約束の時間まで・・・・・・お、あの姿は) 遠目からでも、彼女の姿は、はっきりと分かった。 俺は大きく手を振る。とたんに、流皆は心底嫌そうな顔をしてこちらに近付いてきた。 「恥ずかしい真似はするな欝陶しい」 うん。言うと思った。だが俺は慌てずに言い返す。 「一秒でも早く会いたかった」 「なっ」 ・・・・・・可愛い。やっぱり流皆って可愛い。 「げはっ!?」 鳩尾(鍛えようのない人体の急所)に激痛が走る。流皆さん。最近、殴るの早くなっていませんか? 「なにをしている。置いていくぞ」 「お、おう」 照れ隠しにしてはあまりに痛い一撃を喰らい、俺はそれでも流皆の後ろに付いていった。 今日は映画を見るのがメインイベントである。 「高校生二枚」 映画館の中は、結構混んでいた。やっぱり人気の映画は違う。 タイトルからして純愛の内容だった。うーん。改めて考えると、流皆が気に入るかは微妙だ。さすがに内緒っていうのはまずかったか? 「流皆は、こういう好き?」 「・・・・・・嫌いじゃない」 「そっか。良かった」 上映開始のブザーが鳴る。 交わした筈の約束。 永遠を誓う言葉はあまりに重く、儚い。 主人公の女性と結婚の約束をした男性が、式の前日に病気で亡くなる。そんな悲劇を通して生きる理由を云々・・・・・・。 (うんうん。使い古されたストーリーなのに、それを感じさせない演出。素晴らしい) 評論家気取りの俺。流皆の方を見れば、彼女も真剣そのもので見ていてくれていて安心した。 120分はあっという間に過ぎて、辺りが再び明るくなる。 「中々面白かった」 「え」 ちょっと驚いてしまう。まさか、流皆の方から感想を言うだなんて思ってもみなかった。 これは機嫌が良いと見て正解か? 「どうした?」 「ううん。何でもない」 流皆の感情を読み取るのは難しい。 「さ、次はクレープだ。この時間なら空いているはずだし、行こう」 「・・・・・・うん」 ぎゅ。 「な、火墨!」 抗議の声を上げられるが、俺は流皆の手を離さない。 「駄目って言っても離さない」 「・・・・・・馬鹿」 不承不承ながらも、流皆は手を繋ぐことを許してくれた。 歩くのは気付かれない程度にゆっくりと。 彼女の体温を一秒でも長く感じていたいから。 [*前へ][次へ#] [戻る] |