[携帯モード] [URL送信]

十人十色
期待色

雨が降っていた。それ以上でもそれ以下でもない真実の言葉だ。

傘を少しだけ傾けて空を覗くと、当たり前だけど鉛みたいな雲で世界を包んでいる。太陽が隠れているせいか、肌寒く感じた。

「傘、持ってきて正解だったな」

家へ続く道を歩きながら、私は改めて思った。
天気予報では晴れと言っていたのだが、私の愛する飼い猫のクロが顔を洗っていたのでまさかとは思っていたけど、迷信も信じてみるものだな。帰ったらクロを褒めてやらないと。

・・・・・挨拶がまだだったな、すまない。

私、白神流皆(しらかみ・るみな)は、今年で中学2年生になる。病気ではない。
性別は女。その、口に出して言うことでもないが、同年代と比べると発育が良い。まあ、美人の部類に属するんだろうな。

目はちょっと切れ長で、肩までかかる髪は後ろで一つに纏めている。

趣味のテニスは部活で正レギュラーの座を奪えるまでに上達した。我が中学校のテニス部は全国でも上位の成績を残している。自分で言うのも恥ずかしいが、鼻が高い。

友達からはクールだと思われているだろうな。感情はあまり表には出さないんだ私。
とくに、

「それで、駅前のクレープが美味しいんだ。今度食べに行かない?」

隣のコイツには。

「土曜?それとも日曜?」
コイツは、黄坂火墨(きさか・ひずみ)。同じクラスの男子だ。顔だけなら、とても爽やかで好少年だろう。
性格が飛び抜けて明るく、私としては欝陶しい。

「・・・・・・土曜日」

友達?

違う。

「OK。いや〜楽しみだなー。最近部活が忙しいし、デートなんて久しぶり」

恋人だ。釈然としないが、コイツは私の彼氏。
どっちがどう告白したのかは・・・・・・いつか話そう。

「そうだな」

私は無駄な話しはしない。簡潔が好む。

「流皆はクールだな。もしかして俺といるとつまらないかな?」

「つまらん」

「はっきり言うなよ!そういうときは、べ、別につまらなくなんてないんだからってデレるべきだ。うん」

漫画の読みすぎだ阿呆。あーあ。なんでこんな奴と付き合ったりしたんだろう?

(・・・・・・ふん)

思い出し、顔が朱くなる。私は傘を深く被り直した。火墨の方が背が高いし、これで見られなくて済むだろう。

「なら、私が楽しいと思えるように頑張れ」

「・・・・・・流皆」

まずい、気付かれたか?

「雨あがったよ?」

「えっ?」

本当だ。雨の音がしない。
どうしよう。顔はまだ朱い。こんなの絶対あいつに見られてたまるか。けど、傘をさしていると不自然だ。

「そうか」

傘を閉じ、私は足を早めた。

「なんで急いでんだよ?」

顔を見られないように。

「別に急いでいない。お前が遅いだけた」

「ふーん」

うわっ!

一瞬。火墨が前に来たと思ったら両手で顔をおさえられた。身長は私の方が低いので、クイと首が斜め上に曲がる。
私の顔が覗き込まれる。
止めろ。見るな!
抵抗が出来ない。体が緊張で動かない。
何をする気だ?まさか・・・・・・。

「ひ、ひずみ。やめろ、はなせ」

「やめない」

火墨の顔が近づく。止めろ!こんなところでなんて!?ムードを考えろムードを!誰かに見られたらどうする!?だ、駄目だ。身体に力が入らない。とうとう私との距離がゼロに――――、


コツ。えっ?


唇にではなく。おでこに感触が伝わる。思考が停止。五秒後に再起動。拳を強く握りしめて、

「顔が朱いぜ。風邪か?少し熱がある、ぐほ!?」

殴る。火墨の腹を。悶えている馬鹿を無視して私は歩き出した。途中から早足になり、ついには駆け出す。水溜まりを叩いて足が濡れるのにも構わず、逃げるように。

「馬鹿げている」




私は一体何を期待したんだ?

[次へ#]

1/17ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!