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幻想世界
サッハーリタ洞窟
魔力のこもった石と書いて魔石である。魔石は様々な魔法分野に使用されている。例えば、杖や指輪に飾り付け、魔法発動の触媒として。魔力で動く飛行機や船の、エンジンとしてだったり、武器に応用すれば、魔法使いでない者でも魔法を使うことが出来る。
そして、魔石は大きく分けて3種類ある。

半永久的に魔力を宿す恒常系。

外部から魔力を与えれば回復する充魔系。

1度魔力が無くなれば、ただの石となってしまう回数系。

ちなみに、値段の相場は上から順に安くなっていく。

人々の生活において、魔石とは無くてはならない。
元となる原石は、通常なら鉱泉に詳しいドワーフや、鉱山者が採掘するのだが、ギルドでは一定の資格を持った者に採掘の権利を与えている。
原石の採掘出来る場所には、モンスターが住み着いていることもあり、危険が多いのだ。





《地下洞窟、サッハーリタ》





「ああ、もう!!」

クロノ・スターマイルは悪態つきながら地下洞窟の中を走っていた。背負っているリュックサックが上下に揺れている。
明かりと呼べるのは、額に革紐で括り付けた、充魔系魔石の光り魔法のみ。
クロノはモンスターに襲われていた。

「プギャアアアア!!」

猪をそのまま数倍にした大きさのモンスター。口の両脇からは捻れた角が生えている。名は、ボアー。狂暴で肉食。縄張りに敏感で、1度テリトリーに踏み込めば、殺すまで追い掛けてくる。

「だったら看板立てろっての!間違って入っちゃったじゃん!」

クロノは腰から魔法銃『黒羽』を抜き、後ろも見ないでボアーを狙い、トリガーを引いた。

ッパアン!

何時かの、誰かさんとの勝負で見せた、薄板に小さな穴をあけるような、力を抑えた弱音じゃない。
大口径魔法銃『黒羽』の、本当の実力は、

グシャアア!!

ボアー程度、頭を軽く吹き飛ばし、絶命させる。
頭をなくしたボアーの死体が慣性に従ってゴロゴロと、鮮血を撒き散らしながら前に転がり、止まる。

「「プギャアアア!!」」

後ろからさらに2体。だが、クロノは少しも怯まない。

パアン!!

超高速の2連撃は1発にしか聞こえなかった。先のボアーと同じく、ただの肉塊に成り果てる。

「ふう。残りは・・・・・・いないか。早く移動しないと。血の臭いにモンスターが寄ってくる!」

銃の弾倉から、空になった回数系魔石を取り出し、地面に捨てる。 新しい魔石を装填。
クロノは、奥へと進んで行った。




血のように紅い魔石、ミルエ。
種類は恒常系。

(恒常系っていっても、魔力総量は微々たるもの。ただ淡く光るだけ)

主な用途は女性貴族達の装飾である。

(闇の中でも貴女の場所が殿方に分かります。って、物の価値なんてそんなものかね〜)

しかし、高収入。麦の1粒程の原石でも発見出来れば、2万ミリー。
上手くいけば皮算用で、20万ミリー。
(借家の家賃は1ヶ月で3万ミリー。仕事で使う費用を考えても・・・・・・ふっふっふ)

気味の悪い、薄ら笑いを浮かべるクロノ。

「けど、中々見付からないなー。もうちょっと奥に進もうかなー?」
ミルエの原石は光る。だが目に入る光源は自分のだけ。

「ギィィィイイイアアア!!」

広い場所に出たとたん。上からモンスターが降ってきた。
人の体と蜥蜴の頭を持つ、リザードマン。手には錆びてボロボロになった剣が握られている。
買って手に入れた剣ではない。これらにそんな知恵は無い。洞窟に入り、命を落とした人達の物だ。
数は8体。単体ではクロノの足元にも及ばないものの、ここまで揃うと少々厄介だ。

「ちぃぃっ!」

目の前の1体がおおざっぱに剣を振るい、クロノの頭を砕こうとする。
クロノは唯一空いている後ろへ跳び、3連撃ち。頭、胸、腹部と一気に3体を殺す。『黒羽』の装填数は6発で、残り3発。敵は5体。

(2体余る。なら!)

ジャケットの裏から刃渡り15センチのナイフを取り出し、駆ける。
リザードマンが横薙に振るった剣を、受け流して弾く。
突進。両手で握った刃を、蜥蜴人間の胸に突き立て、体重をかけて押し込める。
ナイフを引き抜く。
牙のある口から大量の鮮血を撒き散らし、残り4体。

「せいっ!!」

投擲されたナイフ。1番奥にいたリザードマンの脳天を突き刺し、『黒羽』を構える。

ッパパパアン!!!

残り、

「・・・・・・音がズレた」

0体。

苦虫をグッチャグッチャに噛み潰し、嚥下した表情になるクロノ。

「ははは」

かわいた笑みを落とす。

「命が軽い。こんなに軽い」

今更?

(思い出したから、かな)


『没落貴族!!』


今から8年前の事。自分は、

「あいつ、今度会ったら殴ろう」

悩内の記憶の本に鍵をかけ、しまう。

ここをはなれたい。




パチパチと燃える焚火。燃料になる木は、洞窟で偶然見付けた泉の脇に生えていた樹木から失敬した。
適当なひらべったい岩に腰を降ろし、リュックサックから包みを取り出す。
それは、固めに焼いた黒パンと干し肉だった。
あぶって無言のまま食べていく。
「ふう」

一息。洞窟に入って数時間は経過しただろうか。携帯型ツルハシで掘って、幾つか原石を見付けたか、ミルエはまだ見付からない。

「破片ぐらい見付かると思ったんだけどなー」

地図を広げ、次の採掘場所を探す。
「こことか、うーん」

勘で指差し、歩き出す。




《酒場にて》

「キリイお帰り〜」

「ハヤナごめんね」

「別に〜。クロノの頼みは大切だもんね〜キリイ?・・・けど、サッハーリタ洞窟だっけ?危ないよ〜お客さんから聞いた話だと傭兵崩れ盗賊が出るんだって。クロノって強いわけ?」

「・・・・・そっか。ハヤナは最近この町に来たから知らないんだよね。クロノは大丈夫だよ」

「強いんだ〜」

「うん、強いよ。・・・・・・本当にお嬢様は強くなられた」

「えっ、なに?」

「ううん。さっ、仕事しなくちゃ。マスターに怒られちゃうよ」

《酒場にて。終わり》




カキン!ガキガキ!カーン!!

「はああっ!!」

壁に向かってクロノはツルハシを叩きつける。

ガキンガキガキガキガキ!!

鋭利な牙が岩を削り取っていく。足で蹴って破片を広げていくが、全部ただのゴミだった。

「まだまだ!!」

ガキンガキン!カーン!

ただのゴミ。

「・・・・・・まだまだ〜!」

ガキガキガキガキガキガキガキンカーンカキンガキガキガキン!!!

ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ!!

「・・・・・・ふっふっふ」

クロノはツルハシを放り捨てる。

「確か発破ってあるわよね?」

壁から離れ、『黒羽』を構える。

「私をナメるなー!!」

ッパアン!!!!!!

瞬間的に同一点に撃ち込まれた魔弾が岩石を爆砕。粉塵が辺りに立ち込め、クロノを包む。
クロノは息を止め、粉塵がはれるのをまった。

「おっ」

一瞬光った? クロノは膝を折り、手を使って丁寧に邪魔な石をどけていく。

「あ」

キラリと紅い光り。

「あったー!!」

図鑑で見たのと間違いない。ミルエの原石だった。大きさは赤子の拳と同じぐらい。純度はあまり良くないみたいだが、それでも10万ミリーはするだろう。

「よしよしよし!!ラッキー!やったよキリイ。この調子で」


「ハロー。女の独りは危険だぜ?ハハハ」


「あん?」

原石をポケットに突っ込み、ゆっくりと立ち上がったクロノは通路の先に視界を向けた。

いたのは、4人の人間だった。性別は男。30〜40代。汚れた服装は盗賊のそれ。手にはナイフ、長剣、銃と良く使い込まれていた。

「あんたら誰?」


1人だけ帽子を被った、おそらくボスであろう男が、両手を空にして答える。

「そのミルエを俺達にくれないかな〜?痛い目にはあいたくないだろう?」

クロノは体から無駄な力を抜いていく。

「嫌だって言ったら?」

馬鹿な連中だとクロノは笑う。

「そりゃあ、もちろん。・・・やれ」

この私を知らない?

「顔に傷をつけるな。高く売れるぜ。クハハ」

サックリ。ブッシュー!!

男3人の言葉が止まる。もう1人のナイフを持っていた男は、頭から脳みそと血をミックスしたトロトロの汚水を滴らせ、フラフラと揺れ、倒れる。

「1命様ごあんなーい。クス」

「ジットおおおおおおおおおおおおおおお!!テメエえええええ!」

仲間を殺されて怒りが爆発した長剣男が走り、クロノの胸を貫こうとする。
クロノは半身になって回避。慣性を殺せず前のめりになった男の背中に、トリガーを引く。吠える魔弾。花開く臓物。
ドン!ドン!ドン
銃男は声にならない絶叫を上げながら乱射するも、メートル単位でクロノから外れてしまう。

「駄目駄目。ちゃんと狙わないとさー。殺せないよ?」

ッパアン

「ぴぎゃっ!うぼぼぼええええええ!!」

胸にあいた穴。男が見たのはあの世への一本道。
残ったボスからは、はじめの下品な笑いは消えていた。
顔にベッタリと張り付いているのは、恐怖8割後悔1割はったり1割だった。
クロノは笑っていた。
はかなく、優しく、凍えるほど綺麗な微笑み。
服に、肌に、髪にも、ベッタリと血と肉片が張り付いている。
鎌の代わりに銃を握った死神がここにいた。

「な、何者だ?テメエは一体なんだ!?」

「私はクロノ。クロノ・スターマイルさ」

「クロノ・・・・・・スターマイル?・・・・・・・・・・・・あ・・・・・・」

男はリゴスの隣町の酒場で聞いた噂話を思い出していた。

リゴスに、凄腕の賞金稼ぎがいると。
それは、女性で、髪は金色。目は空の蒼を埋め込んだかのよう。
使う武器は、十数年前に発明され、小数生産された、大口径魔法銃。

「お前が、クロノ・・・・・・ははは、はっはっはっは!!そーかそーか俺は知らないうちにとんでもねえもんに喧嘩を売っちまったってことか!!はははははは」

壊れたように笑い出した俺は、腰から銃を抜く。

「あんたじゃ、私に勝てないよ。今すぐ逃げるなら見逃してあげる」

「冗談じゃねえ。あいつらはスラムのころからの子分だ」

クロノへ真っ直ぐ銃口を向ける。静かな怒りを目に燈して。

「お前は殺す!!クロノおおおおおおおおおおおお」

パン!!

「謝らないから」

「そ、れ、で、いい、ひゅー、こん、なせか、いかくごは、し、ていたさ、ごほごほ」

男の右胸はえぐられ、紅い生命が流れ出す。
男の手から銃が落ち、体が仰向けに倒れる。

透明な滴。

「ああ、くそ、しにたくねえな」

男の最後の言葉。








《リゴスの酒場》

「たっだいまー!キリイ!!」

クロノを見たとたんキリイは眩しいばかりの笑顔になった。

「お帰りクロノ!!怪我はない?大丈夫?」

「平気だよ。それよりほら、ミルエの原石!!」

クロノはテーブルにミルエの原石を置く。

「う、わ〜さすがクロノ!お疲れ様。お祝いにとびっきり美味しいのを作らないと!」

「うん。まかせた」

厨房へと入っていったキリイを見てから、クロノは、クスリと寂しそうに、

(疲れた・・・)

とりあえずとキリイが運んだ、大ジョッキの果実酒をクロノは一気に飲み干した。

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