幻想世界
6時限目最終(C)
そして、マイヤの番がやって来た。
「絶対勝つんですのよ!」
「いつも通りにやれば大丈夫」
ルミナとアイナスの応援にマイヤはコクリと頷く。
「が、頑張る!」
ぎこちない歩みでステージへ上がるマイヤは明らかに緊張していた。対してリデーネは自信たっぷりに、自分が負けるわけがないと、優雅に杖を握っている。
「これで最後か」
エルヒィードが審判の隣に立つ。審判はビクリと怯える。
「私がしよう。かわれ」
「はいぃ!!」
一目散にステージから降りる、元審判の生徒。
「リデーネ・ミロ・アルデリア!マイヤ・ランオール!双方準備は良いか!!」
「はい!」
「ひゃ、ひゃい!」
《ステージから離れたベンチ》
いつの間にか、まるで対立するように、残っていた生徒はそれぞれクラス同士に分かれていた。
「あ、あいつらマイヤちゃん見て笑った!きー!」
「こちらとあちらでは戦力に差がありすぎる!」
「治癒魔法使える人集まってー」
マイヤと同じクラスの子達は、すでに負けムード。
リデーネと同じクラスの子達は、すでに勝ちムード。貴族の子は嘲笑し、平民の子は同情の目でマイヤを見ていた。
「アイナスはどう思う?」
マイヤは呑気に、欠伸を噛み殺していた。アイナスは、親友の戦力を正しく評価する。
「マイヤが使えるのは1階位まで。対してあちらはアルデリア家。恐らく、2階位はおろか、3階位まで使えるはずです。火力勝負になったら負けは確実ですわ」
「だろうな。ただ、マイヤにはアレがある」
「・・・・・・ですけど。マイヤは緊張していますわ。あれで本気が」
「大丈夫だよ」
ルミナは楽しそうに、ステージを見詰める。
「あいつは本番に強い」
「それでは開始する!」
開始を告げるエルヒィードの合図がステージに響く。
「開始!!!」
ッパアン!
何かが弾ける音。
コーン。カランカラン。
何かが落ちる音。
「えっ?」
リデーネは不思議そうに自分の右手を見る。
握っていた杖が無かった。
何故なら、杖はステージの外に落ちていた。
茫然とするリデーネに、怖ず怖ずとマイヤは杖を突き付ける。
「えっと、私の勝ちです」
「ふう」
アイナスは、ほっと胸を撫で下ろす。
「当然だな」
ルミナは、うんうんと頷く。
「「「え〜!?」」」
生徒の全員から驚きの声が沸き上がる。
ただ一人を除いて。
「は、反則よ!!こんなの、ありえないわ!」
リデーネは憤慨し、マイヤの首元をつかみ掛かる。
「マイヤ・ランオール!」
エルヒィードの声に、それ見たことかと、リデーネは微笑む。だが、次に続いた言葉に、リデーネは愕然で手を離し、一歩後ろへ下がる。
「何故、もっと早く撃たなかった?」
もっと早く!?
「えっと・・・・・・反則だと勘違いされると困るので、相手の動きを見てから動きました」
動きを見てから?まさか、あれで全力じゃない?
ざわざわとする生徒の中で誰に言うでも無く、ルミナは説明しだす。
「呪文省略型高速魔法発動。それが、マイヤの十八番だ。まあ、使えるようになったのは最近だし知っているのは私とアイナスだけだけど」
あからさまに大きな声だった。
もちろん。エルヒィードにも聞こえている。
「呪文省略は6学年から習うはずだが、何故使える?」
呪文省略とは文字通り、呪文を省略して魔法を発動する技術のことだ。だが、これは難易度がとても高い。魔法の構成が上手く出来ず暴発する恐れもある。
4学年の、しかも、農家出身で魔法の才が遥かに劣るマイヤが使えるわけもない高等技術のはずだ。
マイヤは、小さい声だったが、今度は、はっきりと答えた。
「頑張りました」
「馬鹿者!!」
「はう!?」
「反則と勘違いされると思って手加減しただと?お前程度の早撃ちに私の目が追い付けないとでもいうのか!!」
「す、すいません!!」
ペコペコとマイヤは頭を下げる。
「今度手を抜いてみろ。軍式の罰を与える。分かったか!!」
「はい!」
クルリとエルヒィードはリデーネの方を向く。
「リデーネ・ミロ・アルデリア!この負けはお前の油断が招いた結果でもある!50周走ってこい!!」
「・・・・・・はい〜!!」
エルヒィードの怒声と、リデーネの悲鳴で、6時限目の終わりを知らせるチャイムが鳴った。
ここは、ネーメイロ魔法女学園。乙女が集い、魔法の才をみがく学園。こんな一日も、彼女達にとって、茶飯事の一つであった。
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