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幻想世界
模擬戦闘開始前(A)


《第14魔法演習場》


地面より少し高い位置に、直径20メートルの円盤が幾つも設置されているここを空中から見れば、水玉模様に見えるだろう。

「いつ見ても広いなー」

屋外なので風が髪をなびかす。マイヤは三角の尖んがり帽子を深く被り直した。

「それだと前が見えにくい」

「ほら、もっとちゃんとしなさい。他の人から笑われますわよ」

ルミナの指摘。アイナスはマイヤの帽子を絶妙な位置に直す。

「ローブもめくれていますわ。本当に貴女は何処か抜けているんだから」

「・・・・・・えへへ」

2クラス。合わせて65名の生徒が待機場に集まっていた。ベンチに座って、雑談をしたり、マジックマテリアルの調子を確かめたりしている。

「杖に付いてるその魔石良いな」

「私は指輪にしたんだ。似合うかなー?」

「だーかーらー、火力よ火力!勝つんだったら圧倒的にね」

などなど。

「さあ、私の敵はどれだ?」

「誰だ。じゃなくて、どれだ。なんだ・・・・・・」

腕輪に付いている魔石を、丁寧に丁寧に磨いているルミナに呆れるマイヤ。彼女は杖の埃を羽箒で掃っている。
その杖は傷や汚れが酷く、他の生徒が持っている物と比べて、貧相だった。

「マイヤは新しいマジックマテリアルを買うか作らないですの?」

入学したさいに、杖は支給される。しかし、その杖は飽くまで大量生産したスタンダード品だ。
豆電球に車のバッテリを繋げたみたいに、魔力量が多い子は、杖の回路を焼き切ってしまうし、上手く波長が合わない子もいる。
そのために、学園ではダンジョンを開放している。魔物を倒して、爪や牙をミナハに売ったり、採取した魔石をクリエイターに持って行き、マジックマテリアルの強化をしてもらうのだ。

「その杖では貴女にはもう合わないでしょう?ダンジョンで貯めたミリーはないのですか?」

アイナスに聞かれたマイヤは、困ったように苦く笑った。

「貯めたミリーは、その、家に送ってるんだ」

「あっ・・・・・・」

アイナスは、数十秒前の自分を呪いたかった。
マイヤの実家は寒村で、決して生活は楽じゃない。
そんな中、働き手だった娘がいなくなった家はどうなるのだろう。平民には国や貴族から学費の補助が貰える。
しかし、家庭に補助金は出ない。

「お母さんは無理しなくていいって言ってくれたんだけど、やっぱりさ・・・・・・」

貴族のアイナスが平民のマイヤに金がないのか聞く。

最低な発言だった。

「・・・・・・・・・・・・すいません」

やっと絞り出した声は、とても小さい。

「謝らないでよー。大丈夫。あと2、3回ダンジョンに行ってミリーを貯めたら新しいのを作るつもりだからさ」

「そのときは私もご同行しますわ!よろしくて?」

「私も、一緒に」

「うん!ありがとう。マイヤ、アイナス」


「無理をしない方がいいんじゃないの?平民」


人を見下すのに長けた声が隣のベンチから聞こえた。
他のクラスの生徒だった。

「リデーネ・・・・・・」

いち早くマイヤへの悪口に反応したアイナスが怒りあらわに、唇を噛む。

リデーネ・ミロ・アルデリア。アイナスとまではいかないにしろ、有名な上流貴族だ。
リデーネの両隣に座っているのは、同じく貴族だろう。

「その言葉を取り消しなさいリデーネ。マイヤへの侮辱は、この私が許しません」

ベンチから立ち上がり、今にも魔法を使いそうになるアイナス。
だが、リデーネは悠然としたままだ。

「高名な家の貴女が友人選びを間違えるなんて滑稽ね。それとも、それは使用人なの?」

「なっ。マイヤは私の大切な親友です!!ふざけるのもいい加減にしない、と」

「落ち着いて、アイナス」

リデーネとアイナスの間にマイヤが割って入る。

「リデーネさん。私は無理なんてしていません。そして、私はアイナスさんの使用人じゃない。私は・・・きゃっ」

不意にリデーネがマイヤを突き飛ばす。アイナスは慌てて、バランスを崩したマイヤを支えた。

「失礼。これ以上平民の鳴き声を聞くと耳が腐りそうだったから。クスクス」

「リデーネ・・・・・・!」

「アイナス!!」

マイヤは、我慢の限界と杖を取り出したアイナスのローブを引っ張り、止める。
ルミナも無言で立ち上がり、アイナスのローブを引っ張り、ズルズルとリデーネから離れたベンチに移動した。

「放し、放しなさい!」

「じゃあ杖をしまって」

「分かりました!ほら、しまいましたわ」

新しくベンチに座り直した3人。アイナスはまだ怒っていた。

「憎たらしい女ですわリデーネ。今度会ったら絶対に」

「その機会はすぐに来るさ。今回の模擬戦闘でな」

「・・・・・・だから貴女はあんなに冷静だったのですね」

「ああ。もし、あれが廊下でだったら、先生がいようと風紀員がいようと、あの馬鹿を殴っていた」

ルミナは怒っていなかったわけではない。静かに、闘志を燃やしていたのだ。








乙女達の戦いが始まる。

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あきゅろす。
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