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幻想世界
藤堂明正



「・・・・・・ここか」



《ギルド》



朝のリゴスは活気に満ちていた。パン屋がせっせと生地をこねている。


「仕事ある〜?」

ふあーと、欠伸。クロノは、受付テーブルに片肘をつきながら、眠そうに言った。
言った相手は若い男性、テト。テトは仕事の依頼状の束をパラパラとめくり、一つ指を差す。

「これなんてどうです?馬車で旅をしている老夫婦の護衛。隣町までで今日中に終わるし、お代も悪くないですよ?」

「ふーん。けど、最低人数2ってなに?」

紙の隅っこに書いてある小さな文字をクロノは怪訝そうに見る。
テトは申し訳なさそうに答えた。

「いや〜。なんでも山賊が出たそうなんですよ。結構強いらしくて、それで二人ってわけで」

「いらないよ。だから、私が二人分もらう」

即答。過信でもなく、クロノは本当に強い。

「それが、老夫婦も噂を聞いて、怯えているんです。どうしても二人以上がいいと」

旅は素人で、妻が好奇心だけで馬車を買ったらしいんですと、テトが嘆息。
思い付きで、すぐに馬と車をセットで買えるのは、相当な金持ちだ。お代が異様に高いのも頷ける。

「でもクロノさんが嫌いな成金の馬鹿じゃないんです。本当に怖いそうなんです。お願いします。もう一人はなるべく性格の合う人を選びますから」

「はあ」

そこまで頼まれちゃあ仕方ない。クロノは契約書にサインする。
そこへ、

「失礼する」

第三者の声。
クロノが振り返ると、後ろには男がいた。人間種である。

「その依頼私でもかまわんか?」

歳は30代後半、身長は160センチ程だろうか。頭の後ろで一つに纏めている髪の色は、墨を濃く溶かしたような黒。額には、布と鋼の板で作られた防具、鉢金をしめていた。腰には、緩く湾曲した鞘に収まっている剣を履いている。

「あんた誰?」

「俺の名は、藤堂明正。いや、この国では明正藤堂と言う可きか」

「ああ。イーストエンドの方ですね」

テトが思い出したように喋り出す。

「アキマサが名前だね。あんたは剣士かい?」

「侍と言ってもらいたいな」

自らを『侍』と語った剣士の体は細かった。

「そんなことはいい。ただ。・・・・・・ヒョロイ体に薄い剣。あんた強いの?」

「ふむ。どうすれば信じる?」

クロノは腰から銃ではなく、ナイフを抜いた。

「私と勝負しよう」

テトは止めようと何か言おうとするも、間に合わない。

「やめ」

グン!と、クロノがナイフを明正の額を目掛けて突き出す。

「てください!!」

テトが言ったときには、すでに終わっていた。
クロノのナイフは、明正の額スレスレで止まっていた。

「ふうん」

クロノが止めたのではない。

クロノの腕はギリギリまで伸ばされていた。
彼女は自分の攻撃範囲からわざと外した額を狙ったのだ。

(見切った?)

だとしたら中々の力量だ。

「まあ、あんたで良いや。一様よろしく」

「こちらこそ」

攻撃されかけたというのに、明正はひどく冷静だった。
軽く握手が交わされる。




《3時間後》




「もうねー、護衛っていうから話しのかけにくい人を想像してたのよー。良かったわ。こんな可愛い子で」

「あっハハハ。そうなんですか」

「馬車で旅がしたくてね。ほらーこの本なんだけど」

(その会話さっきしたよね!?)

営業スマイル全開で心中ツッコミをするクロノ。
ここは馬車の中、商人が使うような台ではなく、ちゃんと屋根があり、固定式の椅子もある。クロノは向かい合うように座っているお婆さんのループする話しを心中で金金金金金金金金金金!!と心が落ち着く呪文を唱えながら耐えていた。同じ話を聞くと死ぬ病気があるならクロノは23回死んでいた。
明正の方は夫の、おじいさんと会話をしていた。この地方の名産がどうとか当たり障りのない内容だった。

(あんにゃろー、楽な方を選びやがって)

的外れな殺意を抱きながら必死に耐えていると昼になった。

「では、夫婦揃って昼食を」

私達は馬車の外で待機していますので。と、クロノは会話地獄から逃げるため馬車から降りた。
山道に入りかけで、岩が多い。
ちょうど良い形の岩に背を預けて座った。

「さーって、私もお昼を」

包みに入っているのは、キリイが作ってくれたサンドイッチと簡単なオカズ。水筒には冷えたお茶を。

「おお、美味そう」

食べようとした、そのとき、明正が隣に座った。

「苦労だったな」

「モグ。まあー仕事だしね」

チラリと明正の昼食を見ようとしたら、今まで見たことがない、白い三角形が目に映った。

「・・・・・・なに、それ?」

「おむすびだ。俺の国の主食の米を炊いて作った食べ物で携帯にきく」

「へー。一つこれと交換しない?私イーストエンドの食い物って初めてなんだ」

「別に構わん。おっと、白い部分は持つな。手がべたつくぞ。この黒い海苔の部分を持て。一緒に食べていい」

「オーケー。・・・・・・モグ」

角を一口。ホロリとご飯が口の中で崩れ、甘みが広がる。適度に塩も効いていて中々の好印象。

「ん?真ん中になんかある」

「それは魚のそぼろだ」

「へー、中に具を入れるんだ。サンドイッチと同じだな」

「これも美味いな。ふむ。これを作ったのは、クロノではないな?」

「確かに作ったのはキリイだけど、なんで分かるの?」

クロノの質問に明正は、さも当然と一言。

「優しい味だ」

「どういう意味だよ!私が優しくないってでも言うのか!」

「あとは、手だな」

「んな!?手?」

「コレを交換したとき、チラリと手を見させてもらったが、とても料理をした事がある手には思えなかった」

凄い事を言っているような気がするがクロノには理解出来なかった。

「まあ、いいや」

昼食を続ける。続けながらも辺りの気配には注意する。
明正の方も、体の方向はいつでも素早く動けるように、馬車の方を向いていた。

(イーストエンド、かー)

クロノが住んでいる、町リゴス。それがあるのが、レッセフェール大陸。イーストエンドは、そこより遥か左の隅にある島国。
近年から貿易等を交え、他国との交流が始まった。

(ええと、それでカガクって神様を崇拝しているんだっけ?)

その程度の知識しか、クロノは持ち合わせていない。
聞いてみる事にしよう。ちょうど良い暇つぶしになる。

「なあ、イーストエンドってどんなトコなんだ?」

「ふむ。特長と言えば、四季がはっきりとしているところだ。食べ物は米を主食にしている。それと、この大陸のように魔法は発達していない」

「魔法が発達してないって、不便だなー」

「そうでもない。科学があるからな」

科学。クロノは知らないが、それは神様ではなく、人の努力の結晶。魔法とは違う、もう一つの法則。

「・・・・・・・・・へー」

クロノは立ち上がり、腰に手を置く。

「アキマサは馬車に戻ってな」

「いいや、その必要はない」

同じく、明正も立ち上がった。

「護衛だろ?私は元を潰す」

「何人だと思う?」

明正に問われたクロノは馬鹿にするなと、サラリと小声で答えた。

「・・・・・・10人」

クロノの鋭敏な感覚は、見えない敵を映していた。
明正はフムと頷き、刀の柄に手をかける。

「さよう」

煌めく白刃。


「これで10人だ」


バタリと、クロノの後ろから、人が倒れるような音がした。

「・・・・・・ぁ、ぉ」

「嘘だろ」

息絶える最後の呼吸が聞こえて、クロノは、やっと振り返った。

地面に倒れているのは黒装束に身を包んだ人間だった。喉がバッサリと斬られ、鮮血を噴き出している。

(この私が気付けなかった!?)

驚愕以外の何物でもない。

「これは忍びの者と呼ばれる、俺の国の暗殺部隊だ。よもや他の国で粗相をしているなど愚の極み。噂が本当に噂だったら安心したものの」

明正は刀の柄を両手で握り、正面に構える。

「致し方ない。きさまらを斬る」

「×××××××××!」

「××××××××!?」

クロノには聞き取れない。忍者が言ったのはイーストエンドの言語だった。

「うぜえ。とにかく殺せば良いんだろ!」

草むらから飛び出した忍者二人を同時に撃ち落とす。

「ほう、やるな」

前方へ駆ける明正。忍者が短刀を構える。

「せい!」

煌めく白刃は雷速となって短刀を根元から叩き斬る。
血飛沫を上げながら首が地面へと落ちた。

「あんたこそやるじゃないか!」

魔石を装填。クロノは引き金から力を抜き、一瞬の後。

ッバアン!!!!!!

6発を、ほぼ同時に撃ち、4人を仕留めた。

「ありゃ。失敗失敗」

「×××××××!?」

「アキマサー。あいつなんて言ったんだ?」

「お前達はなんだ?化け物か?そう言ったのだ」

明正が律儀に答えた。

「へー」

クロノは残る一人となった忍者に、自分の言語で答える。

「クロノ・スターマイル。それが化け物の名前さ」

パン!

「その躊躇いの無さ。いっそ清々しいな」

軽い一降りで刀の血糊を明正は掃う。

「あんたもね」

交わす笑みは、闇色。濁った瞳。

「さーて、馬車に戻ろうか?音、聞こえていたかなー?なんて言い訳しよう?」

まさか殺人の真っ最中でしたなんて言えない。
すると、明正はさも当然に、

「野生の獣でも出たことにすれば良い」

「賛成」

クロノは銃をホルスターにしまう。そして、とびっきりの営業スマイルを作るために顔の筋肉をほぐすのであった。

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あきゅろす。
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