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幻想世界
キリイ
酒場の女性店員は5人いて、ローテーションを組む。
今日と明日の二日間はキリイの休日である。

「う〜〜ん」

窓から差し込む光で目を覚ますキリイ。ムクリと上半身を起こし、瞼を擦る。
まどろむ思考がゆっくりと晴れていく。

「朝だ〜」

至極当然の一言をもって、キリイの休日が始まった。




着替えを済ませ、朝食の準備をするキリイ。
卵を器用に片手で割り、といで、フライパンにそそぐ。ジュワアアと黄色の液体が泡立つ。
手早く掻きまぜ、ほど好く半熟になったところで白い皿に乗せる。バターの風味が効いたスクランブルエッグの出来上がりだ。
続けてベーコンをカリカリなるまで焼いていると、クロノが起き出した。

「お〜は〜よ〜う〜」

髪がボサボサで瞼が完全に開いていない。折角の美人が台なしだった。
しかも、下着姿。黒の際どいやつ。同じ女性であるキリイでも顔が朱くなってしまう。
・・・・・・ことは無かった。むしろ、呆れながらトーストを作る。

「おはよう。ちゃんと着替えてから朝食だからねー?」

「むー」

クロノは面倒くさそうに洗面所へ向かう。
バシャバシャと水で顔を洗う音を聞いてからキリイは朝食作りを再開した。




スクランブルエッグにカリカリのベーコンとスープ。新鮮な野菜サラダに特製ドレッシング。トーストには自家製ジャムが数種類。

「・・・・・・いただきます」

「はい、どうぞ」

クロノは豪快に、キリイは上品に食を進めていく。

「キリイは今日どうすんの?」

「そうだな〜。掃除と、たまった洗濯と、破れた服の修復に」

「キリイ〜・・・・・・」

クロノの心配は的中していた。

(こいつを絶対に休ませないと)

キリイには休日でも家事を優先する癖がある。働き者と言えば聞こえは良いが、働き過ぎれば疲労は溜まり、倒れる原因になってしまう。・・・・・・本当に倒れたこともあった。

「今日は町に出な」

「うん。夕食の買い物に」

「違う!」

ビシリと、クロノはフォークをキリイの鼻先に突き付ける。

「遊びに行くの。あんた一人で」

「ええっ!?」

キリイは困惑している。自分が遊ぶなんて、考えもしていなかったようだ

「どうして?クロノは?」

「急な仕事があったんだよねー」

もちろん嘘。

「だから、あんた一人で遊びに行くの」

自分がいると、キリイはいつも気をつかって、本当に楽しめてもいないし休んでもない。だから、この機会に、相棒に正しい休日の過ごし方を経験させよう。

「分かった?」

クロノのメラメラギラギラした熱い何かに寒気を感じたキリイは、

「・・・う、うん」

と、頷いてしまった。

かくして、キリイの初めての、一人で休日が始まる。




《リゴス大通り》

空は雲一つなく、見事な快晴。なのに、キリイの足どりは重かった。

「何処に行けば良いんだろう?」

本屋?雑貨屋?お菓子屋

ぱっとしない。

八百屋?魚屋?肉屋?

・・・・・・そういうのは行くなって言われたんだっけ。

「あっ」

キリイの目にとまったのは、

《服屋〜アーネイト〜》

「服か〜」

自分の服装を上から下まで見る。青色の無地のワンピース。はっきり言って地味だった。
この機会にお洒落を、でもお金が、

(・・・・・・ミルエの半分、クロノから貰ってたんだっけ)

財布を確認、2万5400ミリー入っている(全部は持ってきていない。残りは貯金箱の中だ)。

「よ、よーし」




《キリイ来店》

「いらっしゃいませニャー!」

ハキハキとしたネコミミ(本物)女性店員の声。中はこじんまりとしていたが、服の種類は多く、手入れも行き届いている。
お客さんも結構いた。
壁には、閉じられたハサミの絵が描かれてある。
服屋は幾つかのタイプに分けられるのだが、ここはオーダーメイドをやっていないらしい。
オーダーメイド専門店には、開いたハサミの絵が描かれてある。

「ごゆっくりご覧になるニャー」

「ど、どうも〜」

とりあえず、キリイは色々と見ることにした。

「う〜〜ん」

いっぱい素敵なのが多くて迷う。値段も手頃だ。
キュート系?セクシー系?基調の色は?

「なにか気に入ったのはありましたか?」

はじめとは違う女性(エルフ)店員が声をかけてきた。

「えっ、えーっと、その、まだです・・・・・・」

「これはどうです?最近売れているハーフパンツなんですけど?それとも、こっちの黒のカーディガンとか?」

「あ、あの」

「あっ!サイズ。サイズ測りましょう!さあさあこっちに」

「ちょ、ちょっと」

「お客様が困ってるニャ!」

ズビシ!ネコミミがエルフの脳天にチョップした。エルフは頭を押さえて悶える。
悶えているうちにネコミミがそっとキリイを他の列へ連れていく。

「ごめんなさいですニャー。あいつはちょっと元気が良すぎるんだニャ」

「す、すいません」

「謝らなくて良いですニャー。けど、意外だニャ。酔っ払いの束を口だけでまとめるキリイちゃんが本当は恥ずかしがり屋だとはニャ」

「仕事だと平気なんです。ただ、普通の会話は」

親しく話せているのは、クロノと酒場の仕事仲間に大屋さん。最近ではキリカ等だ。

「ニャはははははは!まあ、これからだニャー。素敵な服を買ってイメチェンなのニャー」

「はい」

「ここにいたら邪魔ですかニャー?」

「い、いえ。あの、私に似合う服って分かりますか?」

パアとネコミミ店員の顔が輝く。

「これなんてどうですかニャ?」

白のブラウスに、ラズベリーピンクのベルト付きスカート。
スカートの丈は膝より上。

「試着だニャ!」

〜10後分〜

試着室から出てくるキリイ。

「これ、かなり大胆なんじゃ」

膝がとてもスースーする。
恥ずかしい。恥ずかし過ぎる!こんな服着たことがない。

「最近の売れ筋なのニャ。とっても似合っているんだニャー。キリイちゃんは磨けば光るんだニャー!」

「そ、そうですか?」

コクコクとネコミミ店員が頷く。キリイも満更ではなさそうにクルリと一回転。
これにしようかな?こんなのも一着ぐらい。

「ちなみに値段は?」

「上下で8000ミリーだニャ。でもキリイちゃんの可愛さで二割引きの6400ミリーだニャー!」

「良いんですか!?」

「良いのニャー」

「じゃあこれで」

「まいどありなのニャー!」




《再び大通り》

(似合ってるかなー?えへへ)

意気揚々とキリイは、どこを目指すでもなく歩く。
まだ恥ずかしさがあるものの、自分だけの休日をキリイは楽しみつつあった。

(今度は何処に行こうかなー)

お昼までにはまだ時間がある。

そういえば。

(クロノ、お昼どうするんだろう?料理出来ないし、外食?)

休みの日はいつも自分が作っていたのに。
ピタリと足を止める。段々寂しくなってきた。

「クロノ・・・・・・」

返ってくる言葉は、



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・キリイ」


えっ?

振り返る。

「クロノ!」

「まったく。服を買うまでは良かったのに。ふわっ」

急にキリイが抱き着いてきた。
目には涙が溜まっている。まるで、母親を見付けた迷子の子供のように。

「駄目だよ〜クロノがいないと寂しいよ〜」

マフマフと胸に顔を埋める。

「泣くなって。もう」

仕方ない。今回はここまでにするか。・・・・・・こっそりついて来て正解だった。

(とりあえず)

クロノは自分の胸からキリイを離し、涙をそっと拭う。

「一緒に買物しようか?」

「うん!」

さっきまでの涙が嘘のような笑顔になるキリイ。

二人並んで歩き出す。

きっと、ううん。最高の休日になるとキリイは思った。

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あきゅろす。
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