幻想世界 マイヤ・ランオール(@) 《ネーメイロ魔法女学園》 昼休みにもなると食堂は、生徒で溢れかえる。一歩でも出遅れれば、テーブルは埋まり、座ることが出来ない。 「ふえ〜。間に合ったかな?」 今食堂に駆け込んできたのは、4学年の生徒。 身長もスタイルも平均的、制服を着崩しているわけでもなく、スカートは膝まであり、ミスリル聖銀の学称は、ちゃんと左胸の部分に付けてある。 長い黒髪を後ろで一つに束ねた彼女の名は、マイヤ・ランオール。 平民出の魔法使い見習いだ。 「はあ、はあ、はあ、はあ。マイヤってば、早い、はあ、ま、待って」 マイヤの後ろから息を切らして、なんとか追い付いてきたのは、同じクラスのルミナ・サレー。 整った顔立ちにすらりと伸びた足は、大人気の艶やかな踊り子と呼んでも良いだろう。 眼鏡の奥にある、燃えるように紅い瞳は、彼女の父が人間で、母が亜人の混血だから。胸のせいで学称が斜めになっている。 「もう遅いよルミナー。あっほら、アイナスが待ってる」 マイヤが迷わずに進んで行く。ルミナには人混みに突っ込んでいく無謀者にしか見えなかったが、信じてついていくと、 「遅いですわよ貴女達!!」 左右の椅子をローブと帽子で空にしている美少女から、怒声が降り注いだ。 ルミナ以上に、恐ろしいぐらい顔立ちが整っている。 肌の色は雪の女王のように白い。腰までとどく髪は極上の絹、エメラルドの真緑。同じく瞳も。 深窓の令嬢のように可憐。 アイナス・フレード・ディスケンズは、正真正銘の上流貴族。12魔法名家の血を引き継ぐお嬢様である。 「ごめんねーアイナス。色々あってさー」 「まったく。ここには予約席なんてありませんのよ」 「・・・・・・食べないで待っててくれたんだ。それに、これ」 テーブルにはアイナスのを含め、3人分のランチがあった。勝手に置かれていたわけでもなく、つまり。 「準備してくれたの?ありがとうアイナス〜」 椅子に座ったマイヤが目を輝かしていると、アイナスは顔を真っ赤にして慌てた。 「かかか、かん、勘違いしないでほしいですわ!わたくし、私は別に貴女達のために準備したのではありません!ただ、その、場所を取るために仕方なくですね、それで」 あたふたとしている姿を見て、ルミナはニヤニヤとしている。 (素直じゃないなー。・・・・・・そこが可愛いんだけど) 「と、とにかく、昼食ですわ。せっかくのスープが冷めてしまいますわよ」 冷製なフリをしてアイナスはスープを飲む。 マイヤとルミナも食事を始めた。 「そんなことが!?大丈夫でしたの?怪我はしてないでしょうね」 「うん。空渡さんが助けてくれたの」 「それを先生に説明してて遅れた。寂しかった?」 「別に寂しくありません!」 テラスでゆっくりと紅茶を飲む3人。周りには、他にも休憩時間を有意義に過ごしている生徒の姿があった。 「午後は、歴史からかー」 「違いますわよ。ああ、貴女達はちょうど聞けなかったのでしたね。午後は攻撃魔法からですわ」 「ええ!?そんな〜」 ガーンとショックを受けているマイヤだったが、ルミナは嬉しそうだった。 「ふふ、好都合じゃないか。こっちは鬱憤が溜まっているんだ。楽しみだ」 「なんでも、二人一組で模擬戦闘らしいですわ」 4学年にもなると本格的な戦いになる。 ルールは一対一。指定空間で行う。この空間では、高度なマジックマテリアル・『リーンの盾』により、一定以上の攻撃魔法が当たっても傷が付かない。例えば、頭や心臓などの危険部位への攻撃は無効。 体ごと吹き飛ばす攻撃には、風による自動クッションが働く。 手加減無しの本気で戦えるのだ。 勝負時間は3分。相手に負けを認めさせるか、『リーンの盾』の補助を受けたら負け。 「それと、他のクラスとの合同らしいですわ」 「ますます良い。痛めつけても蟠りが生まれないし、なにより・・・・・・どうしたマイヤ?」 会話に交ざらないマイヤに心配してルミナが話し掛けると、マイヤはビクリと反応した。 「え?ううん。何でもないよ」 平静を装うマイヤだったが、アイナスに気付かれる。 アイナスは冷めた紅茶を飲み干しマイヤの顔を真っ直ぐ見る。 「・・・・・・気にしないで平気ですわよ」 生徒は平等と規則がある学園。 しかし、やはり、一部の生徒内には差別がある。 マイヤにも、お前は平民だからと、心ない言葉、行動を受けるときがある。今もそれは無くならない。 (クラスの中にはマイヤの実力を知り、態度を直した人達もいますが、他のクラスには。くっ) 「大丈夫だよ。私は平気。ただ」 「「ただ?」」 ルミナとアイナスの揃った声に、マイヤは恥ずかしそうに答えた。 「お腹減っちゃうかなーって。・・・・・・パン買ってこようかな?」 「あは」 「貴女って人はー!!この私が心配しているとき、そんな呑気なことを!?」 アイナスは憤慨しつつも、ふうと息を吐き、安心していた。 「じゃあ、そろそろ行こうよ」 「そうするか」 「ええ」 魔法の時間が始まる。 [次へ#] [戻る] |