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(25)
「蓮……さん?」
そう、俺の頬を力いっぱいに叩いたのは蓮さんだった
俺の頬を叩いた右手を痛そうに左手で包んでいる蓮さんは、その顔までもが辛そうだった
「詩遠は…なんにも分かってない…
この数週間…幸慈が何をしていたと思ってんの?」
「蓮っ」
少し震えながら真っ直ぐ俺を見る蓮さんを、止めるように託す幸慈
俺は知らない…幸慈がなにをしていたのか
「幸慈は…詩遠が潰した組の事が、裏に回らないように…
全部…組員全員が協力して、阻止してきたんだよ?
まだ仕事残ってるはずなのに…時間を作って」
「蓮!!…もういい。俺が悪かった」
そう言って俺に謝った幸慈が寂しそうな顔で、くしゃっと俺の頭を撫でる
幸慈が暫くして腕時計を見て、裏門の方へと歩き出した
『なんにも分かってない…』
蓮さんの言葉が頭に染み付いて離れなかった
本当に何も知らなかった…
好きな食べ物だって、仕事の内容だって、どれ程幸慈が俺を必要としてくれてたのかだって
何も…
知らぬ間に涙を流していたのか、蘭さんが涙を拭ってくれた
「詩遠。蓮の言い方、少し強すぎたかも知れない…でもね、幸慈は詩遠を大切に、詩遠だけを考えてきてたんだよ」
「……うん」
返事をした時には、幸慈が消えた裏門へと走って行っていた
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