93゚ (19) でもあいつの苗字は阿久津のはず… 何故だ 考えが頭の中をぐるぐる回る 「幸慈さん?」 「あ、あぁ…なんでもない」 遙が鋭い目線を送ってくるが、その視線から逃げるように遙の部屋を後にした まだ白川との戦闘の爪痕が残る本家を、掃除している來人を呼ぶ 「少し、いいか?」 「はい。すぐ部屋の方に向かいます」 自分の部屋で待っていると、静かに入ってきた 「白川の頭…俺の親友だった」 自分の考えを伝える 來人は吃驚したように、声をあげる 「多分…だが。でも苗字が違うんだ。もともとあいつの両親は、仲が危うかった…離婚したのか…桜鳳会に引き取られたのか…」 「親友ならば……少しは躊躇するかと」 俺だってそう思いたかった 葎は…俺を裏切ったのか? 桜鳳会に引き取られたのならば、少なくとも葎は桜鳳会を恩人だ、と慕うだろう あいつは優しい奴だ 「俺を、裏切ったのか」 「もう少し様子を見ましょう?遙さんには…」 「いや、あいつにも仕事がある。大変だろう」 言い終わった途端、俺の部屋の襖が開く そこにいたのは、顔を歪めた遙の姿 「すみません…盗み聞きするつもりはありませんでした。が、俺だって幸慈さん…組長の右手です。大丈夫ですよ」 強くそう言う遙に、甘かったな…と考えを改めた [←][→] [戻る] |