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副会長様は彼女持ち。
3、王道学園は萌えの宝庫。
 ――僕が入学した私立帝華(ていか)学園は、一言で言えば、『王道学園』、である。

 つまりは、基本的に生徒が金持ちの息子達で構成されている、小中高一貫エスカレーター式の男子校で、広大すぎる敷地にある校舎も施設も超一流。場所は辺鄙な山奥で、全寮制。男ばかりなせいで、学園に所属している間、生徒達の八割以上がゲイやバイになって、生徒同士で思春期特有の爆発的な性欲を発散させるのが当たり前の事の様になっている、歴史ある閉鎖空間。別名・薔薇の楽園と呼ぶべきだと思う。
 ああ、まさに王道だ。僕が幾度となく小説や漫画の中で見て来た学園BLの王道な学園をそのまま三次元に持って来たのかと尋ねたくなるレベルの王道学園だ、この帝華学園は。



 そんな帝華学園に入学したばかりの頃の僕は、この学園で生BLを見て楽しもうだとか、――そんな考えは、持っていなかった。



 ……幾ら僕が腐男子だと言っても、当然ながら二次元の中で繰り広げられる架空の恋愛劇と三次元と言う名の現実とをごちゃ混ぜにしたりはしていなかったのだ。


 小説や漫画の中で繰り広げられるBLと言う名のファンタジーは、現実の同性愛とは別物だ。――生々しさを極力排除し、禁断の愛と言う響きの良い、けれどもターゲットである女性にとって余りにも身近過ぎない様に異性達を題材にして、そこに少女漫画の耽美さをこれでもかとぶち込み織り交ぜた恋愛ジャンルの一つ。この考えと認識が、僕が初めてBLに触れた時にBLについて考察した結果で、今でもそう思っている。

 だから、この、BLの王道とも言える学園に入学したばかりの頃、「幾ら王道学園に似通った学校だからって、実際にBLの世界で起こる様な事なんて無いだろう。もしかしたら少しはあるのかも知れないが、そんなのはきっと滅多に無い」と、考えていた。僕はこう見えて分別がある方だと自負している。


 しかし、現実は小説以上に奇なりと言うべきか。外面も中身も、何もかもがBLの王道そのもの学園は実在していた。そしてその学園に所属する事になった僕は、校内の『抱かれたいランキング』及び『抱きたいランキング』で上位に食い込んでしまったらしく、いつの間にやら親衛隊が出来ていた。社交辞令的とは言え、周りにそこそこ愛想良く接していたのも、そうなった理由なんだろうか。僕としては腐男子である事を隠す為にも、優等生のフリでカモフラージュしていただけであるが。
 とりあえず、自分の外見が良い事については、今までの人生の間に見て来た周囲の反応によって分かっていたし、親衛隊が出来て持ち上げられるのは別に構わない――寧ろ、見た目を褒められ黄色い声援をぶつけられるのは、相手が同性であったとしても何だかんだ言って嬉しいと思うのは、おかしい事では無い筈だ――と思っていたので、特に不満は無かった。……性的な意味で見られているって事に目を瞑れば、だけども。
 それに、僕の親衛隊が設立される前に、ランキング上位の者は特に(性的に)襲われやすいから、本人公認の親衛隊を作る事によって、ファン同士の牽制を行わせたり、自主的な護衛活動を行ってもらう事で身を護るのが良いと、当時の風紀委員会の人達に説明されたのもあって、すぐさま生徒会に必要な書類を提出したりもしたな、あの頃は。(親衛隊のメンバー達には、本当にお世話になっているし、頼りにしている。)


 でも、幸か不幸か、僕の場合、それだけでは終わらなかったのであった。

 生徒会のメンバーは、いつまでも同じままじゃない。卒業を控えた先輩方は、後輩達にその仕事を託すものだ。そして、まさに王道中の王道を突っ走るこの学園においては、生徒会のメンバーは『人気』――家柄以上に見目が重要なそれによって、選ばれる。

 ――つまり、二年生の秋頃に、王道学園を彩る要素の一つである『副会長』に指名された僕は、王道BLの世界へと、本当の本当に足を踏み入れてしまったのだ。


 ……『副会長』が『学園BLの王道物語』の中で、どんな役割を持っていて、どんな事をすべきなのか。それを、腐男子である僕は、当然の様に知っていて、それがどれだけこの学園に相応しい立ち振る舞いであるかも知っている。それぐらい、この学園は『王道学園』そのままなのだ。
 それならば、僕は僕の立場をそのまま演じるべきだろうな。そうして、舞台の上から、舞台上に広がる生BLを思う存分楽しんでやろうじゃないか。そんな風に僕が考えてしまったのも、この学園が余りにも『王道』過ぎたからだろう。

 ――『腹黒副会長』は、『王道学園』の生徒会に欠かせない要素だ。それは、僕の彼女に報告をした際に、相談し合って出した結論でもある。

 彼女は萌えよりも僕の身の安全(勿論性的な意味合いで、だ)を優先し、心配してくれたけど、どうせ今更学校を変えるなんて出来ないんだ。だから開き直って、腐男子である事とその知識を存分に利用し、台風の中心の直ぐ傍――無傷で居られる無風地帯、ど真ん中の安全圏で、萌え萌えしまくる方がお得じゃないか。


 その為に、伊達眼鏡を掛けたりと、少々身を張ったりするのも覚悟の上で。





 そんな風に考え、『腹黒副会長』として過ごし続けて、もう直ぐ一年が経とうとしているが、――僕が待ち望んでいる展開は、今のところやって来ていない。

 僕が見たいのは、『王道転校生総受け』なのだけど、肝心の転校生君は、いまだに姿を現してくれていないのだ。
 ……ああ、僕は彼を何時まで待ち続ければ良いんだろう。早く来てくれなきゃ、俺様生徒会長×健気な美人副会長に浮気するぞ。

 ――いや、僕が副会長だからそれは無いな。僕は腹黒キャラだし、そもそも僕には彼女が居る上にノーマルなんだから、あの西園寺とくっ付くつもりなんて欠片もないし、本当にそんなの有り得ない。無理だ。仮に僕に彼女が居なかったとしても、あいつはちょっと遠慮したい。あれは僕とは違う世界に住む、萌え系生物だ。

 なら、本命の王道転校生総受けが来るまでの間、浮気するなら真面目に見えて鬼畜な優等生×一匹狼か、親衛隊隊長総受けだな、やっぱり。生徒会役員×ノンケ平凡一般生徒な固定カップリングも良い。


 うん、どれも萌えるから、目の前で見たい。――そうだ、生BLよ、もっと僕の前で展開してくれ。例をあげて言えば、西園寺が親衛隊隊長とかに手を付けている真っ最中に、気付かれない様に出くわしたい。(この前はうっかり気付かずに扉を開けてしまったし。)そんな感じで僕を萌えさせてくれ、王道学園の王道達。


【第一章終了】

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あきゅろす。
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