Underdog
1
「メンバーだけで話し合う時間もいるだろう」
そう言うと、赤磐さんは部屋を出ていった。逃げたようにしか見えない。追及を避けたかったんだ。
隠し事ばかりの嫌な大人。
沈黙という名の暗雲が広がる。外は快晴なのに。
重苦しいため息が、それぞれの口から漏れる。
「――俺は全く納得いってないんだけど」
「俺も!」
よどんだ空気を破ったハルの言葉に、亮が勢いよく手を挙げて同意した。
やっぱりそうだよな。風邪だと思ってたA君が実は転校してましたーみたいな。
「――でも、真吾は了承済みだっていってたよな。俺達が納得するかどうかなんて関係なく、話は決まってたんだろ」
秋栄か痛いところを突いてきた。
それに俺は、ライブ当日に真吾らしい人影も見てる。至って健康そうに笑っていた。腹痛っていうのが嘘で、ただ客席から俺達の出来栄えを見るのが目的だったのかもしれない。
思い当たる節はまだある。ハルに逐一練習の状況を伝えてたことだ。自主的に練習するように仕向けてたとは言えないだろうか。
最初からポジションをとる気なんてなかった。
寄せ集めの俺達が本気を出せるように用意された、いわば……踏み台だとしたら。
そんなの……悲しすぎる。
「ヒロは? さっきから黙ってるけど」
亮に名指しされた。
真吾がライブ会場にいたような気がしたけど、俺以外にも見てる人はいないだろうか。気のせいだって言ってくれないだろうか。
言ってみようか。聞いてみてもいいだろうか。
――やっぱりダメだ。こんなヒートアップしてる中で言っても火に油を注ぐだけだ。
「いろいろありすぎてついていけないよ」
気付けば、模範回答みたいにつまらない台詞でごまかしていた。
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