Underdog
11
「……何か、言いたいことあんだろ」
ハルの声が、静けさを破った。
「……別に」
「言えよ」
「……別に、たいしたことじゃないけど」
ふぅ、とため息を吐き出す。言うつもりなかったんだけど、これじゃあいまさら引き下がれない。
言わなくても良いっていうか、別に……言っても良いんだけど、わざわざ前置きまでして言うほどでもないんだけどさ。
「ライブが成功したのは、多少はハルのおかげでもあるから。――ありがとな」
グワッと睨まれた。どうやらハルが予想していた言葉とは違ったらしい。
「……なんだよそれ」
「ね、労ってやってんだよ。有り難く頂戴しとけ」
コップを勢いよく床に置くと、ハルは外人並のオーバーアクションで頭を抱えた。あんまり変わらないように見えてもやっぱ酔ってるなぁ。
俯いた頭。前髪の間から俺を見ている。
「……だった」
「え?」
「ギター、どうだった?」
散々悩んだあげく、そんなことか。
「正直に言うけどさ」
「あぁ」
たっぷり間を空けて、緊張を最大限まで高めて。
「――緊張しすぎて覚えてないんだよね」
数秒の沈黙の後、ハルは音もなく前のめりに倒れ込んでいった。
本当はしっかり覚えてる。音も、アイコンタクトしたときの高揚感も。
でもなんか、伝えちゃったら負けな気がして。
だからやっぱり言ってやんない。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!