Underdog
9
「なんでお前まで帰る気でいるんだよ……」
「送ってやろうって親切心にそういう態度?」
「頼んで……ねぇし」
弱々しい声が新鮮だ。
ふらつくハルの腕を掴みながら、前に(不本意ながら)泊めてもらったマンションに到着する。
「……じゃあ、送り届けたってことで」
「……あぁ」
モゴモゴとお礼らしいことばを言っているようだ。聞こえなきゃ意味ないっての。
俺に背を向けて歩きだし、エレベーターのボタンを押す。何を思ったか、まだドアが開いてないのに中に乗り込もうとする。当然ドアに激突した。
「っ――!」
金属の鈍い音と、声にならないうめき声。まだ、送り届けたとは言えなさそうだ。
部屋に上がるなり、ハルはトイレへ走っていってしまった。明かりも付けずにドアを閉めてる。いろいろ我慢してたらしい。
考えてみりゃ仕方ないよな。急遽舞台に立って演奏する。どれだけのプレッシャーがかかってたんだろう。想像出来ない。荷物くらいは運んどいてあげよう。
部屋の中はかなり散らかっていた。というか、まるで泥棒に荒らされたかのような有様。引き出しは開きっぱなしで中身は飛び出てるし、椅子も変なところで倒れてるし。
「……あんま見んな」
やつれつつもどこかすっきりとした顔のハルだったが、部屋を一瞥して頭を押さえる。
「何だよこの部屋……」
「関係ないだろ」
なんだか、ハルの心の中を覗いちゃったような。
あんなふうに練習を抜けた後、荒れないほうが難しい。きっと、何日も何日も八つ当たりと自己嫌悪を繰り返したんだろう。
何か声をかけなきゃ。
でも何て?
鈍った頭で考えていると、ハルが台所から何かを持ってきた。
「――ボトル?」
「ミネラルウォーターのな」
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!