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Underdog


「なんでお前まで帰る気でいるんだよ……」
「送ってやろうって親切心にそういう態度?」
「頼んで……ねぇし」

弱々しい声が新鮮だ。
ふらつくハルの腕を掴みながら、前に(不本意ながら)泊めてもらったマンションに到着する。

「……じゃあ、送り届けたってことで」
「……あぁ」

モゴモゴとお礼らしいことばを言っているようだ。聞こえなきゃ意味ないっての。
俺に背を向けて歩きだし、エレベーターのボタンを押す。何を思ったか、まだドアが開いてないのに中に乗り込もうとする。当然ドアに激突した。

「っ――!」

金属の鈍い音と、声にならないうめき声。まだ、送り届けたとは言えなさそうだ。



部屋に上がるなり、ハルはトイレへ走っていってしまった。明かりも付けずにドアを閉めてる。いろいろ我慢してたらしい。
考えてみりゃ仕方ないよな。急遽舞台に立って演奏する。どれだけのプレッシャーがかかってたんだろう。想像出来ない。荷物くらいは運んどいてあげよう。

部屋の中はかなり散らかっていた。というか、まるで泥棒に荒らされたかのような有様。引き出しは開きっぱなしで中身は飛び出てるし、椅子も変なところで倒れてるし。

「……あんま見んな」

やつれつつもどこかすっきりとした顔のハルだったが、部屋を一瞥して頭を押さえる。

「何だよこの部屋……」
「関係ないだろ」

なんだか、ハルの心の中を覗いちゃったような。
あんなふうに練習を抜けた後、荒れないほうが難しい。きっと、何日も何日も八つ当たりと自己嫌悪を繰り返したんだろう。

何か声をかけなきゃ。
でも何て?

鈍った頭で考えていると、ハルが台所から何かを持ってきた。

「――ボトル?」
「ミネラルウォーターのな」

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